バイクブーム真っ盛りに10代を過ごし『バリバリ伝説』に熱くなって、いつか俺もと夢見た昭和40年男は少なくないだろう。僕もギターに興味を持つ前は、16歳になったらバイクに乗るんだと夢見た中学生だった。ギターを手に入れてからはロック一筋の人生になってしまったが、高校生になるとバイクに乗る者が多く、事故や停学などの武勇伝がちょくちょく伝わってきたものだ。
金のほとんどをロックにつぎ込んでいたから憧れのバイクにはとてもじゃないが手が届かなかったが、人生ってヤツは不思議なもので、現在ウチの会社の主力はバイク関連の雑誌を中心とした仕事だ。バイクにまつわるありとあらゆる仕事をこなす日々である。その中で、取材やトークイベントを通じて、トップレーサーとご一緒させていただくことが多い。その話はいつも驚愕であり、感動に満ちている。
あるトークイベントで「300km/hで走るんですよ。怖くないわけないじゃないですか」と、ベテランライダーは客を笑わせた。だがこれはとてもギャグで流せる言葉でない。ライダーたちはものすごい精神力で恐怖に打ち勝ち、1つでも前を目指している。常に死とは隣り合わせだ。かつては男たちの仕事はほとんどがそうだったが、現代となってはそんな職業はごくわずかである。厳密にいえば、激務で寝る時間を極端に絞り込んでいることは命を縮めているだろうし、移動中のクルマで事故なんてことだってあるわけだから、まったく危険がないわけじゃないものの、レーサーほど死と直結している仕事はそうそうない。その世界でトップを狙う男たちの強さにいつも感心させられながら、取材やトークイベントに臨んでいる。
今年のイベント仕事の1つで、年間で4回がプログラムされている『カワサキ・オーナーズ・U29・ミーティング』に、23歳の若きライダー渡辺一樹選手がレギュラーで参加することになっていて、つい先日その2回目があった。現在のところポイントランキング4位につけていて、今年は鈴鹿8時間耐久レースにも参戦することになっている。何かと注目を集めている彼と、ステージでトークを展開するのは実に楽しい。彼の魅力を少しでも理解してもらいたいと集中してする会話は疲労度がものすごく高いが、やりがいがある。そして彼のようなナイスガイだとなおさらだ。現在日本で4番目に早い男はどこまでも謙虚で、23歳でこの環境を手に入れたのによくぞ天狗にならないなと感心させられる。その彼の姿勢がこのサクランボだ(笑)。イベントの控えテントのテーブルにさり気なく置かれ「どうぞどうぞ」と声をかけてくれる。前回の同イベントには『信玄餅』を同じく「どうぞどうぞ」と勧めてくれた、現代の若者としては珍しい気遣いのように思う。
そんな彼だが、サーキットのシグナルの色が変われば野獣のごとく前を目指し、フィジカルとメンタルのすべてを注ぎ込んで、死と隣り合わせで走る。少しでもタイムを詰めるためにリスクと戦いながら工夫を凝らし、トライを重ね、頭脳をフル回転させてマシンを操るのだ。トップライダーたちは、人間の持てる能力のすべてをサーキットでぶつけ合う。だからイベントでのトークは、走りの理論や工夫を明確に言葉にできる。
今週末は『全日本ロードレース選手権第4戦 SUGO120mile耐久レース』が行なわれる。200km近い距離を1人で走るのだから、かなりしんどいレースになることだろう。先日のトークイベントでも渡辺選手はこの距離を気にしていた。距離だけでなく、渡辺選手の言葉を借りると開催されるスポーツランド菅生は休める場所がないそうだ。鈴鹿サーキットのように長い直線があると、300km/hでぶっ飛びながらも休めるらしい(スゴイ)。ところが菅生の直線は登りになっていて、速度を上げながら浮き上がってこようとするフロントを抑え込まなければならないから休めないという表現をしていた。まさしく死力を尽くしての戦いとなる。これは全選手に言えることではあるが、若者の体力は武器になるのではなかろうかと期待している。
年間チャンピオンが射程距離内にある渡辺選手にとって、前半の折り返しとなるこの日は最低でも表彰台に登りたい。もちろんその真ん中であれぱ、後半戦へ、そして夏の祭典『鈴鹿8耐』へといい感じで繋げることができる大変興味深い1日となる。さあ、俺たちおっさんはみんなで応援だ(笑)。
バリバリ伝説。
一樹も伝説をつくっていって欲しい。
ただ命懸けにはかわらない。
気をつけて!なんてゆー言葉は彼らにはかけるものではないのかも知れない。
命はかけても命は落とすな!
そんなんですよ、気をつけてなんて言葉はないですよね。先日は気負わずに行けと言葉をかけました。