この時期の夕暮れに、我想う。

夕暮れ昨日のことだ。いつものそば屋で夕食を済ませて店を出たら、19時になろうとしていた。「夏至が近いな」と、思わずパチリと収めた夕暮れである。金曜日ということもあって人の波はなんとも楽しそうで、週末を満喫しようと繰り出す方も多いのだろう。そんな人波と逆行してオフィスに戻る自分あざ笑い、そしてふと昔を振り返ってしまった。

高校時代から居酒屋でバイトを始めて、週末はまず休ませてもらえなかった。音楽の世界を夢見ながら居酒屋で働き続けたから、週末に遊びに出かけるぞという楽しみの経験は極端に少なかった。その後勤めた広告会社で、やっと週末に繰り出すなんて念願の行動ができると思った。それ以前に見ていたドンチャン騒ぎする客たちの側で、今度は僕がその楽しみを味わえるのかとワクワクしていたが、毎日激務で呑みに繰り出すなんてほとんどないどころか、居酒屋時代と変わらず終電で帰る日々だった。独立して会社を作るとまったく仕事にありつけず、呑みに行く金がない。少しずつ仕事が軌道に乗れば、激務は勤めていたとき以上となり、やはり繰り出せない。そして今に至り、呑み客でにぎわう夜のそば屋でタヌキそばをすすり、オフィスへと戻る自分なのだからおかしなものだ。週末の遊びとつくづく縁の薄い人生だが、金曜日の夜は居酒屋で働いていた当時から今も大好きだ。1週間の中でもっともワサワサする感じがよい。

居酒屋時代は心の原風景になっている。開店準備が済むと街は少しずつワサワサし始める。きれいに着飾った化粧のキツイ女たちが次々と街に現れては雑居ビルの中へと消えていき、やがて街には客があふれ始め、さあ今夜のピークがもうすぐだという時間がだいたい19時前だ。今くらいの時期は、まだ夕暮れの空なのにピークタイムを迎えるのを、いつも妙な気分を味わいながら楽しんだ。

そのまま10時過ぎくらいまでは、客がひっきりなしにやって来る。やっとこさ閉店して片付けが終わり、僕が週末の街に繰り出すのは午前0時をいつも過ぎていた。店はほとんど閉まってしまい、街にさっきまでの活気はないが、深夜の店にはそこにしかない味がある。この時間帯だから呑める連中との時間は、人生のわびさびをたっぷりと教えてくれた。やがて店をはねた女たちが、ついさっきまで客に愛想を振りまいていた疲れを癒すように羽を伸ばす。たわいのない連中同士の、たわいのない話が延々と繰り返され、この時期だと4時を過ぎると徐々に外が明るくなってくる。僕が通ったいつもの居酒屋が閉まる朝の5時にはすっかり陽が昇っているが、そこでやっと僕にとっての週末の夜が終わるのだ。疲れをまとったような、なんともいえない街の臭いと、それを覆うような爽やかな朝の空気は真逆ながら、不思議とバランスを感じさせられた。

夕べは繰り出すことなく終電に乗り込んだが、久しぶりに夜中を呑み通したいなと思ったのは、この時期の空気と街の喧噪、そして夕暮れがあの頃とダブったから。自分の過去へと、時間の旅をたっぷりと楽しんだ。今夏は1度くらい、あの日のままに夜中の街へと繰り出してみることにしよう。

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4件のコメント

  1. 週末のワサワサ感。
    昔はこの感じが大好きだったし、敏感にそれを感じ取っていた。
    しかし現在は、そのニオイを感じる感性が鈍っているのかなぁ。
    何だかむかし程の期待感というかまさにワサワサ感がないのよ。
    時代がそうかもしれないし、俺自身も歳くったからだと思う。(T_T)

    • 確かに歳くいましたよね。でも、ニオイを感じるのが鈍ってるわけじゃないと思いますよ。お互いに年齢に突っ張って、もがいていきましょう(笑)。

  2. ご無沙汰しています。大阪の秘密基地で、前回お会いした元編集者です。
    次回は8月でしたね。池田駅前のいつも貴誌を買う本屋の司令塔の、京大中退のお兄さんが
    ぜひ連れて行って欲しいというので、同行の予定です。よろしくお願いいたします。

    今日の日記は現職当時の忙しくも遣り切れないような、不思議な気分を久しぶりに
    思い出しました。失礼いたします。

    • ありがとうございます。再会を楽しみにしてます。友人の方もご一緒にガンガン盛り上がりましょう。

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