アナログレコードに取りつかれた昭和40年男。

5154Q9KP34L._SL500_AA300_忘れもしない昭和54年の1月5日のこと。僕は東京の下町・荒川区にある、わりと大きなレコード店で散々悩み続けていた。生まれて初めて、自分の金でレコード盤を買う。それも洋楽のLPをターゲットにしていたのだ。2学期の終わり頃からずっと悩み続け、ほぼ決めてはいたのだが、いざレジへ運ぶとなると迷う。

そうしてついに手に入れたのはクイーンの『ジャズ』だった。今になってみると、これがレコードライフのスタートというのはちょっと照れくさいが、中1の僕の決断である。家に帰って針を落とすと、いきなり中東風のサウンドが炸裂してビックリさせられた。あまりにも自分の想定外で、この曲は印象が悪かった。だが何度も聴き込むうちにどんどんハマる。これはおもしろいことで、逆に第一印象はすごくいい感触なのに、聴き込むうちに飽きる曲もあることを知り、聴き込むほどによくなっていく曲こそ価値ある曲であるという私見を持つまでに、購入から2週間とかからなかった。

そこで、これはおもしろいとノートを作った。当時、何かというとノートに残そうとするのは誰もが共通する思い出じゃないだろうか。練りに練って作ったフォーマットは、購入日を明記してタイトルとミュージシャンの名前をデカデカとタイトルにする。その下には、帯に書いてある紹介コピーを丸写し。そしてさらに曲名と作詞作曲編曲担当者の名前を書き込んだ。なんだか無駄な作業のようだが、当時はこれが楽しかったのだから、現代の若者が聞いたら腰を抜かすかもしれん。そして曲名の横には3つの枠を作り、ここには数字を書き込んだのだ。この数字こそ僕の洋楽ライフを充実させた。

かめばかむほど味が出るとは、親父の好きな言葉で僕に擦り込まれていた。A面冒頭の『ムスターファ』は、当時そう評価した曲である。そこで僕は資料としてこれを残そうとしたのだ。3つの枠にそれぞれ第一印象と、5回くらい聴き終えた時、そして全曲歌詞まで覚えるほど聴き込んでの最終評価を、20点満点で埋めた。この変化が大きければ大きいほど、かめばかむほどに味が出たことになり、僕にとっての名曲ということになる。『ジャズ』を聴き込んだことで出たアイデアだから、このページの第一印象と真ん中の枠は記憶をたどったものということになる。そこでバカバカしいことに後日の記憶による採点だとの注釈までつけたのだった。このノートのフォーマットを完成させたのが、人生3枚目となったアルバムを購入する直前で、これ以降、初めて針を落とした時の印象を採点することから、僕とLPとの付き合いは始まった。

このノートのおかげで、LPを1枚通して聴くことが大切な時間になった。曲の細部までを吟味するような集中力を身につけられたのはよかったと思う。実は、これ以外にもたくさんの趣味ノートを作ったが、この洋楽LPノートほど楽しんで作ったノートはない。最終ジャッジをした後には、アルバムレビューを書き、1枚全体の仕上がりとしての採点までしていた。こんなすばらしいノートなのに、お袋がいとも簡単に捨てやがったから、当時どんなレビューを書いたのか、永遠に読み返すことができないのが残念でならない(笑)。

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4件のコメント

  1. 私は野球ノートでしたね。内容は・・・まったく憶えてません・・・。
    JAZZの「レコード」手元に持っています。
    付録というかレコードジャケット3倍の大きさのポスターにドキドキしました。

    • あのヌードピンナッブには苦い想い出があります。家に帰るなり興奮のまま家族のいる居間で広げてしまったのです。もちろん内容は知らないまま。両親が見守る中でさむーい空気がたっぷりと漂い、そのままピンナップを居間に残したままにしてステレオのある部屋に移動しました。その後きっと処分されたのです。最高の宝物を手に入れた日に、中1男子にとって最高のおかずを失ったのでした(笑)。

  2. 趣味ノートといえば、
    小学生の頃はドラえもんの道具を1巻からずっと表にして記録してました。

    • そいつはスゴイ。でもきっと残ってませんよね。もし残っていたら、酒の席の主役は間違いなしでしょうね。

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