多摩川の春を彩る浜大根に想う。

写真桜の次は待ってましたとばかり、この浜大根が満開になる。僕にとっては馴染みない名称だが、大根が浜辺で野生化したもので、砂地に強いそうだ。なぜに多摩川に根づいたのかはわからんが、土手中を覆い尽くしているといっても過言でないほど、見渡す限りに広がっている。派手さはなく可憐な感じがよい。桜が散って少し経つと満開になるのもよい。ゴールデンウィーク前の、初夏を思わせる日が混じる頃満開となり、わりと長い期間に渡って楽しませてくれる。野性のものでまったく手をかけていないのにきれいに咲く逞しさに、いつも感心させられる。暖かい日にはお弁当を楽しむ家族連れで賑わっていて、おそらく地元住民の多くはこの花の満開を楽しみにしているだろう。

雪柳僕の家の近所には梅の香りが漂うエリアがあり、まずその香りに春への期待を高める。まだまだ寒い日ばかりなのに、しっかりと到来は近いぞと告げてくれ、やがてこの写真のユキヤナギがブワッと咲き、これで桜の秒読みとなる。今年はコイツの満開から数日で桜の開花宣言になり、満開まではまでがえらくスピーディであっという間に散ってしまった。楽しみにしていた多摩川の満開も完全に計算が狂ってしまい、さらに雨風で寿命も短い残念な春だった。どっこい多摩川には浜大根があると言い切れるほどの、土手全体の占拠ぶりは凄まじい。

僕は東京生まれの東京育ちで、幼少の頃はこんな風に自然に親しめる環境でなかった。草花がまったくなかったわけじゃないが、公害で汚れきった空気のなかでは美しさは半解してしまう。空はいつも濁っていて、星なんかほとんど見えず、初夏になると川沿いで花を楽しむどころか、悪臭が漂ってくる。ヘドロがたまった川は、未来に向かってどんどん汚れていくことを想像していた。それは子供心に、豊かさの代償として仕方ないものだと諦めてもいた。自分が大人になって、まさか東京の空や川が今ほどきれいになっているとは、まったくの想像外である。僕が住んでいた街と同様に、多摩川界隈もひどかったそうだ。京浜工業地帯と呼ばれた地域で、社会科で習った汚染の中心地である。多摩川は排水の受け皿として、とくに汚染がひどかった。それが今や鮎が戻ってきていて、都内有名デパートで売られているというのだから驚きだ。

舛添都知事が、今週中国北京を訪問する。対汚染対策で東京が協力するとのことで、この言葉が力強く感じられるのは、もっとも汚れた街からの脱却もリアルタイムで目撃してきた昭和40年男だからだ。この東京の改善ぶりと技術をしっかりと伝えてきてほしい。そして、日中のいい関係の構築に少しでも役に立てたら、東京を愛する男としてはうれしい限りだ。

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