シオンさんの新譜(といっても2月リリースだが)を聴いた。昭和35年生まれの兄貴の歌は、大人の男たちにしっとりと響き渡り、心のひだに添ってゆっくりと効いてくる感じを味わえるぞ。
デビューは昭和61年で昭和40年男は21歳になった年だ。バブルに向かってオシャレ音楽を聴いていた多くの昭和40年男には、あまり親しみのないシンガーかもしれない。パンクフォークといった仕上がりのファーストアルバムに続いて、泉谷しげるさんの名曲『春夏秋冬』に大胆なアレンジを施して、そのままタイトルとしたセカンドアルバムが大きな話題になった。大胆なリズムアレンジに、攻撃的な曲と歌唱が並ぶ傑作で、バイト先の仲間がブルーハーツのファーストとセットで協力レコメンドしてくれたおかげ知ることができ、ヒロトさんにもまいったもののどちらかといえばシオンさんにノックアウトされた僕だった。以来、ライブに何度も出かけ、アルバムもほとんどすべて持っているヘビーユーザーになってしまい、今に至っている。なにが好きって甘ったるくなく、媚を売るような曲がまったくないことだ。自分の信じる音楽を、激しさとやさしさの幅広い表現レンジを駆使して、心に直接飛び込んでくる。
このアルバムについてのインタビューを読んだ。ここ近年レーベルからの作品とは別に『Naked Tracks』なるシリーズをリリースしている。1人での宅録でフルアルバムサイズに仕上げていて、去年制作したものを一緒にやっているバンドメンバーの内の3人に渡して、それぞれにアレンジできそうな曲を挙げてくれと依頼したところから始まったそうだ。そしてそれぞれが選んだのが1曲もかぶることなく提案され、10曲を4、3、3曲で分け合うかっこうでアレンジを施してアルバムが仕上がった。これを聴き分けるのはおもしろいぞ。
今回もなにものにも媚びない曲たちが並んでいる。針を落とすと…、じゃなくスタートボタンを押すと『ウイスキーを1杯』でアルバムがスタートする。俺たち中年男にはたまらないブルースの香りが漂う。そして2曲目の『後ろに歩くように俺はできていない』の歌詞は、昭和40年男たちに強く響き渡るはずだ。みんな苦しんでいる。つらいことばかりあるなかで、どんなに遅いスピードでもいい、少しでも前に進もうとの人生の応援歌だ。シオンさんの歌は聴き手を叱責したり、自分の考えを押し付けたりしない。自分という人間を通じて、そして弱さとか苦しさを吐き出して、それでも前に進まなくちゃと歌う。とくに年齢を積んでからはこの傾向が強く、社会のなかでもがく僕らが共感できる世界を見せ続けてくれている。収録された10曲はそれぞれに深く考えさせてくれ、ラストはやさしいナンバーで締めくくるのがまたシオンさんらしい。
人生を積み重ねてきた男たちにしっとりと響き渡る1枚だ。つらいことがあった夜には、濃い酒をチビチビ呑りながらこのアルバムにじっくりと心を預けよう。きっと疲れが癒えるし、明日への元気が湧いてくることを約束する。
シオンがデビューした年。
四国は高松の小さなホールで彼を観た。
出逢いはジャケ買いの1stアルバム。
新宿の片隅から。。。
これから東京へ出て行く自分と歌詞を重ねた。
不安とそれを煽るコンクリートジャングル。
詩人シオンは、私の青春です。
デビュー年に観ているとはうらやましいですね。
1stは名曲ぞろいのアルバムで、今でもよく聴きます。『コンクリート・リバー』と『新宿の片隅から』、『俺の声』はカラオケでもちょくちょくリクエストしますし(笑)。