うちの社が出版事業に手を出して10周年を迎えたので、
間にいろいろはさみつつ、これまでのことを振り返りながらつづっている。
初めてつくった音楽雑誌『音に生きる』創刊号は、
大変なボリュームと力の入った作品となったものの、
やりづらさがなかったかといえばウソになる。
ミュージシャンだけでなく、裏方まで含めて音楽業界へのトライをテーマにしたため、
どうしてもテーマが広がり気味になる。
バイク雑誌ではあれほどまでに絞り込むことで成功したわけだが
それとは逆行していることになる。
不安を吹き飛ばすために、きっと大丈夫じゃと自分に言い聞かせながらも、やはりギクシャク感を持っていた。
アーティストの人気で読者を引っ張るのか?
それともあくまで雑誌のテーマでか?
その中間あたりでつくればいいのか?
企画のテーマを決めて、そこに合うアーティストのインタビューを掲載したいと思っても
取材依頼が通らないことが多いのもつらかった。
アーティストたちの大まかな活動の流れは、レコーディング(制作)〜リリース〜ツアーとなっている。
アーティスト側に大きなメリットがある、大出版社の超メジャー誌であれば無理も効くかもしれないが
俺たちのような新参者は基本的にリリースのタイミングでしか取材対応してもらえない。
リリースのタイミングにレコード会社から声をかけてもらい、出かけていくといったつくり方なので、
登場アーティストのベクトルがそろわず、そこも悩ましいところだった。
本の方向性に合わせた質問をするものの、読者の興味はそのアーティストに対してである。
そうした空回り部分が多いのは、そのまま難しい編集作業となり
手に取った読者のみなさんにも“わかりづらい”ものとなってしまった。
業界人からのウケはすこぶるよかった。
そうだよね、難しいテーマをクリアしようと踏ん張っている、音楽誌としては珍しい存在だもの。
でも、セールスはあまり芳しくないものだった。
もともと、ビジネス自体の立ち上げ時から懸案事項でもあったのだが、
音楽雑誌の市場サイズ自体があまり大きいものでなく、
専門学校という巨大広告マーケットの魅力が付与されていたのだ。
さらには、バイク業界への不安感からの脱却もここに進出するモチベーションだったのだから、
本を読者に打ち込むという意味だけでとらえると不純物が混じっていることになる。
それでもなんとか続ける価値はあると判断し、継続することにした。
2号では今も人気を集めるYUIさんのインタビューに成功し、表紙にも起用した。
するとセールス結果は1号よりはよくなった。
だが、読者アンケートを見てみると、それは音楽で生きていきたいという本来のターゲットでない、
YUIさんのファンの女の子たちがたくさん買ってくれたからだと判断せざるを得なかった。
セールスが伸びたことは、雑誌をつくっている人間としては当然ながらうれしいが、
またまた複雑な気持ちにさせられたのだった。
続くのだ。