昨日書いたとおり、偉大なる男の助手席に乗って全日本ロードレース最終戦の取材にでかけてきた。大編集後記を続けていたからもうずいぶんと前のことになるが、ここに残しておきたい。というのも、なんとも難しい結果で今年の最終戦が幕を閉じたからだ。
近年まれに見る、僅かなポイント差で迎えた最終戦だった。この日は2ヒート制になっていて、つまり選手たちは2戦を争うことになっている。そしてポイント差からすると、国内の4メーカーに乗る1人ずつにチャンスが残っているという、本当にワクワクさせられる最終戦だったのだ。1ヒート目はヤマハがトップで続いてカワサキが2位に入り、ポイント差ではカワサキがトップに立ち、2ポイント差でヤマハが追う展開になった。ホンダとスズキの調子があまり良くなく、ほぼこの2台に今年のチャンピオンは絞られたと感じさせた。
カワサキのライダーは何度もお会いしている柳川選手で、昭和45年生まれの大ベテランである。世界を転戦した後、全日本に戻ってきて今年で10回目のシーズンとなる節目を迎えた。ヤマハの中須賀選手もナイスガイなのだが、正直な気持ち柳川さんに取らせたいと願ったのは、年齢が近いからである。
レースが始まり、ケガから復活して参戦したホンダのライダーがレースを引っ張った。チャンピオン争いには絡んでいないものの、鈴鹿サーキットでは圧倒的に速い選手だ。レースは5周目のまだ序盤に、その事件が起こった。大粒の雨がポツリと降り始め、注意喚起のフラッグが振られた。それを見たトップ選手が、手を挙げてペースを落とした。トップグループがそれを見て同様にペースを落とす。これは、世界グランプリではルール化されていて、トップ選手には走行が困難と判断した場合にレースをストップさせられる権限が与えられているそうだ。この時点では、レースは一時中断して主催者にその後の判断が委ねられるはずだった。が、後続集団から1台のマシンがごぼう抜きにして駆け抜けたのだ。これに真っ先に反応したのがヤマハの中須賀選手だった。これに遅れながら他の選手たちも追いかけ、柳川選手も追走を始めたのだった。このラップの中須賀選手と柳川選手のタイム差が約4秒だった。このタイムラグが生じての反応だったのだ。レース後の記者会見では、2人ともどうなっているのかわからず「?」を浮かべながらも走ったと振り返っていた。
ヤマハを追うカワサキの展開となり、2台はそのままチェッカーを受け、タイム差は4秒弱だった。レースに「たられば」はないのを承知のうえで、でもどうしても考えてしまう。そして、柳川さんの悔しさが痛いほどわかる。キチンと走って負けたのなら悔いはないだろうが、こんな不完全燃焼で長い1年を終えたことになるのだ(本人の無念はこちら)。中須賀さんだって決してスッキリとしていないだろう。せっかくの最終戦は、こんなにも後味の悪いものになってしまった。