絶品スパゲティを頬張って。

IMG_1395昭和40年男にとってスパゲティとは? ケチャップ味のナポリタンとミートソース、給食で出たソフト麺でさえその仲間として迎え入れて、強い憧れを持つメニューだったのではないか。ミートソースを煮ている香りが家に充満する中で待った夕食のワクワク感たら、今も鮮明に蘇る。また、その日は多めに麺を茹でてくれ、翌朝にケチャップ味のナポリタンになって出てくるのが我が家風だった。カレーの方が食卓に並ぶ頻度が高かったために、ありがたさは大きい。

やがてイタリア料理と区分されていく過渡期を眺めながら成長した我々であるが、まだまだスパゲティは洋食でありイタリア料理だとの認識を持っていなかった10代の後半にある男と出会った。以前、テレビ番組の『アド街ック天国』に紹介されて、店が大繁盛となった話をここで紹介したことがある。大田区の大鳥居にある小さな店「リストロ ジン」のオーナーシェフで、僕の兄貴分と呼ぶにふさわしい人物である。かつて大田区蒲田にあったその店は、看板こそステーキハウスを名乗っていたが、メニューは当時としては珍しいイタリア料理をメインに構成していたのだ。そこで初めて食べたトマトソースのうまさったら、ナポリタンとミートソースとソフト麺以外知らなかったハイティーンの僕を唸らせるのに威力抜群のものだった。あれから30年の月日を経てもなお、僕を唸り続けさせている。

そんないい男との出会いがありながらもスパゲッティは子供の食い物とのイメージが強く、茶店のナポリタンはよくてもイタリア料理店のランチに入るのは照れくさい。夜に男同士で呑みに行くときも選択肢になく、大好きなイタリア料理を食べられるのは照れ隠しに女子がいなくてはならない。男同士で呑むとなれば、焼き鳥を中心としてほぼ100%和食系の店になってしまうその反動からか、つき合ってくれる女子がいるときにイタリアンにすることは多い。これも撮影者はカワイイ女子だ (笑) 。

つい先日、テレビで紹介されて約3ヵ月が経過してどんなことになっているかと様子を見に行ってきた。すると勢いはまったく衰えず、テレビで来た客がリピーターになって増え続けているいい状況が続いているという。完全に繁盛スパイラルに入ったということだ。兄貴分の彼は蒲田の後、銀座ホテル西洋のイタリア料理の名店「アトーレ」でオープン当初からしばらくセカンドシェフを務めたり、京都センチュリーホテルの和食も含めたすべてのレストランのグランドシェフも経験した。そんな偉大な料理人が、小さな店を奥さんと切り盛りしている。この姿は見ていて清々しく、また料理は極みに入っている。僕の11歳年上で還暦リーチである。
「そんなでかいところを経験してなかったら、テレビで紹介された後の繁盛は切り盛りできなかったよ」とは、今回訪ねて聞けた名ゼリフだ。番組で絶賛と紹介されたラザニアばかりが出るのを、クオリティを落とさず毎日大量に仕込んでいく技術を自らがそう評していた。男が懸命になって積んだ経験は、必ず繋がっていくのである。そして、年輪とはこうして昇華できるものであると、相変わらず絶品のトマトソースのスバゲティを頬張りながら深く感動した夜になった。

PRになってしまうが、興味のある方は訪れてみてはどうだろう。青山や銀座の名店の半値以下で、本格的なイタリアンをお腹いっぱいに楽しめる。
 

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