8月某実、僕は霞ヶ関の経済産業省を訪ねた。うちの会社で発行しているバイク雑誌『タンデムスタイル』の取材に同行し、アベノミクスのわずかな片鱗を見てきたのだ。
耳にタコかもしれんが、安倍政権では金融と財政、そして成長戦略の3本の矢を放つと叫んでいる。現在の日本はここに大きな期待を寄せ、将来不安を少しでも払拭したいとの切実なる願いが強く、先日の参院選挙に結果としてハッキリと出た。ここにいたり今ひとつ、キモである成長戦略が見えてこないと早くも批判が高まっているが、どっこい身近なところで動きを感じられた。訪ねたのは経産省の自動車課で、そのまんま自動車関連事業の活性化に奔走しているところだ。声高に叫ばれるアベノミクスの取り組みを、バイク業界にも波及させようとしていることを知り、早速取材を申し込んだ。
自動車課課長の前田氏に話を聞いた。詳しくは明後日24日発売の『タンデムスタイル10月号』に掲載しているから、興味がある方はぜひのぞいていただきたい。要約すると、経産省ではこれまであまり着目してこなかったバイクについて調べたら、世界中で走っている半分近く(約42%)が日本ブランドである。世界中の膨大な製品のうち、約半分が日本製だというものはまずなく、これはスゴいことだと前田氏は言う。世界の人からすれば、バイクを見たら日本を想像することも多いだろうから、物言わぬ外交官なのだと。そして経産省としてここが手つかずだったことが、申し訳なく思ったと続け、日本を代表する産業でありながら、国内販売が先細リになってきたのはおかしい。やったろうじゃないかと腰を持ち上げたのだ。具体的には、現在年間の販売台数が40万台にまで落ち込んでしまった国内マーケットを、2020年には100万台へと回復させることを目指していくとぶちあげている。バイク関連の仕事を長く続けている僕にとっては、これまで見向きもしてこなかった日の丸がやる気になってくれたのはありがたい。経産省では今後、これに加えて安全マナーの普及と世界シェア50%を達成するとの、3つの目標で取り組むとのことだった。
平成10年までは100万台以上の市場をずっと維持していたから、まったく不可能な数字ということではない。とはいえ、去年の約2.5倍のマーケットを目指すというのは、現段階ではまだまだ絵に描いた餅以外の何ものでもなく、今後の取り組みに対して、積極的にコミットさせてほしいと僕は願い出た。
年間100万台を目指すには、バイクを取り巻く免許制度に対して整備が絶対不可欠だ。現在の日本は世界的にみてイビツな免許制度になっていて、これが需要減になっているのは明らかである。簡略していえば、日本の50ccは世界の多くでは125ccであり、400ccは600ccだ。世界で半分近くのシェアを持つメーカーの本社所在国である日本が、世界のスタンダードから完全に逸脱しているのが事実なのだ。これは大きなネックになっていて、俯瞰で見ればユーザーにとっても不利益になっている。好調のアジアで125ccのラインナップを充実させている一方で、日本向けに赤字を垂れ流しながら50ccを生産し続けている。もしも、世界スタンダードを日本が共有できれば、メーカーにとって国内の主戦場が125ccクラスになり、魅力あるモデルが次々とラインナップされてユーザーにとっては選択肢がグーンと増える。そのままマーケットの拡大につながり、不採算部門である50ccを縮小できた事業効率の良さと相まってメーカーは車両価格を下げる。現状の50ccは、事業需要が多くを支えているから、ここを安価で魅力的な125ccのマシンが取って代わることは、郵便などの国家インフラの効率改善や、新聞配達や宅配業者をはじめとする事業に利益をもたらす。それだけでなく、とくに都市圏では危険極まりない、時速30㎞規制なんてバカげたルールから解放されるのだ。
通学通勤、主婦の買い物などの生活需要も大きい。125ccは50ccに比べれば快適で、走る楽しみがグーンと広がる。するとたとえば、通学目的で乗り始めた高校生が、将来は趣味として継続しながら大型車に乗る。現在よく叫ばれている、若者の四輪離れにもブレーキの一役を担うかもしれない。短期的な市場拡大だけでなく、長期的な日本経済へのいい影響を生み出すことが確実である。目標としている100万台なんて、ラクラククリアーできるはずだ。
…とまあ、これはいいシナリオでそのまますべてがうまくいくとは限らないが、何もやらないこととは雲泥の差が生じるのは目に見えている。こうしたいい規制緩和による経済成長こそが、成長戦略のキモである。
ただ、お得意の縦割り行政下の日本では、いくら経済活性化が目標の経産省が着目したとはいえ、そうカンタンに法整備などできるわけがない。そんなことは百も承知だが、国内100万台との言葉を口にするなら、免許制度の改正なしではそんな目標達成は120%あり得ないと、恐縮ながら僕はこの取材の現場で噛み付いた。目標達成が本気でならば、縦割り行政の弊害にも目を向けていただきたいと申し入れたところ、今回のインタビューでは管轄外の法改正も視野に入れているとの回答を得た。これは小さいながらこの日の収穫だったと思っている。さて、これからどう動いていくか。微力ながら気炎をあげていくつもりだ。
さすがは、バブル脳の昭和40年生まれだな。
アベノバブルよいしょのホルホル記事wwww