バイトと音楽に明け暮れていた18歳の頃、バイト先のすぐそばに汚いけど安い寿司屋があった。
今考えるとずいぶんと背伸びしていたなと思うのだが、初めてひとりで呑んだ店である。
すし職人とカウンター越しにつきあう楽しみを覚えたのだった。
松岡さん、通称マッちゃんは多くの客から愛されていて、彼を目当てに訪れる客が多かった。
気さくな人でギャグをバシバシ放ちながら握り、でもその手は早い。
研究家に言わせたらたいした職人ではないだろうが、
そもそもそのレベルでジャッジできる俺ではないのだから関係ない。
いつも安く楽しく食わせてくれるマッチャンが大好きだった。
大阪へ音楽修行に旅立つと伝えるとすごく喜んでくれた。
夜行の電車で行くその旅立ちに、折り詰めを持たせてやるから立ち寄るように言われた。
俺は遠慮した。だってねえ、ファンの多いマッチャンのもっとも忙しい時間に、
ただで握ってもらうのはちょっと躊躇するでしょ。
修行を終え帰ってきて報告に行くと、すごく喜んでくれうれしかった。
と同時に「折をこしらえて待っていたんだぞ」と聞き、申し訳ない気持ちにもなったのだった。
その後、何件か店を移ったけど、いつもその度追いかけた。
一時、高級店に入ってしまい、気軽に行けないという時期もあったが、20年以上のつき合いを続けていた。
が、突然姿を消した。
店に聞いてもどこの店に移ったのかわからないという。
そもそも、電話番号の交換をしていたわけじゃないから、こうなると連絡のつけようがない。
5年以上がたち、もう会えないと諦めてかけていた。
ある日、若手の寿司職人で仲良くしてもらっている堀ヤンと酒を呑んでいた。
一軒目が終いで次に行こうとなり、安い寿司屋でおもしろい職人さんが握っているからと
誘われるままにのれんをくぐった。
するとびっくり。マッちゃんが握っているじゃないですか。
もうね、涙ぐんでしまったよ。
途切れかけていた18歳からのつき合いが、またつながった瞬間だったのだ。
「お互い歳をとったね」と笑うマッちゃんは、あの日のまんまの職人さんで、
相変わらずギャグをバシバシ言いながら握る。
いやあ、人生っていいものですなあ。
マッちゃんsan、お元気でなによりです!!
先日、副編の小笠原を連れて行ってやったら喜んでいました。昔は髪の毛が長かったとか、よくがんばっていたなんて褒めてもらったり。あんなことこんなこと…。