書店には職業柄よく出向く。そもそも雑誌が大好きだから、興味がある表紙を手に取って立ち読みしながら、自分にとっての買いの決め手を探る。僕だったらこう作るとか、できるだけ余計なことを考えずに、中学時代から続いている雑誌ジャンキーの気分を大切にしながら、書店の棚を漂うのだ。
つい先日、こんなお宝本を見つけた。学研パブリッシングによる『今、浮世絵が面白い!』の第1巻である。この類いのシリーズ系出版物にはよく揺れ動き、これまでも何度か手を出したことがある。ターゲットはもちろん僕らを中心にしたおっさんなことは明白であり、その誘いを裏切らない僕だ。だが、全部揃えたためしがない。発行点数が多くてだんだん取り上げる題材がしょぼくなっていったり、興味が薄れてしまったりと続かないことばかりで、中途半端なコレクションが無惨に本棚に突き刺さっている。仕方ないことだが、仮面ライダーカード以降いろんなモノに手を出してきたコレクターマインドの強い昭和40年男の僕にとって、全巻揃わないのは大きな敗北感を味わうことになる。以前唯一、寅さんのDVDシリーズは完結させたが、本棚を彩るものでないからこれまで挫折してきたものとはわけが違う。
なんてことをブツブツ考えながらも立ち読みを始めた。『富嶽三十六景』がすべて収められた綴じ込みポスターはぜひ欲しい。だったらこのポスターを入手する気持ちで、コレクターマインドを封印して
“この1冊” をほぼ買う気になった。ところがここで、悩ましいコンテンツを発見してしまう。広重の『東海道五十三次』トレーディングカードがついているのだ。これはコレクションしたい。先日、読売新聞の100周年記念事業で全部集めたばかりだが、このトレーディングカードのサイズだと、かつて集められなくて悔しかった永谷園のお茶づけのおまけを手に入れた気分が味わえる。
1冊買いをほぼ決めていた僕にとって、『東海道五十三次』トレーディングカードがついているのはかえって迷惑な話だった。手を出すのなら全巻コレクションせねばならぬ。そこで今後の発行計画はどうなっているのかと誌面をなめ回すのだが、どこにも明記されていない。「ウーム」と唸りながら、ではこの第1巻に何枚ついているのかを数える。53次中15枚とずいぶん多い。僕の頭脳に埋められた性能の悪い計算機が動く。これはそれほどの出版点数にならないのではとワクワクしながらさらに誌面をなめ回していると、意外なところに見つけた。裏表紙に今後のシリーズラインナッブが明記されているじゃないか。全6巻でどれも入門者に優しい、広重や歌麿などの名が連なっている。全巻揃えようとか、豪華バインダーとか、さらには定期購読を今申し込むとなんちゃらという派手なPRはなく、この裏表紙にだけさりげなく告知されている奥ゆかしさがいい。
よしっ、買うぞ。だがここでさらに疑うのは、我ながら1冊購入するのにどんだけの思慮を張り巡らせているのかと情けなくもなるが、巳年はしつこいのだと片付けることにしよう。最後に疑ったのは、もしかしたらよくある “創刊号特別定価” だ。680円(税込み) とだけ表紙に記され、特別定価の文字がない。これでやっと購入が決定した。それにしてもたった1冊にこれだけの思慮の長旅があるのは僕だけだろうか。ただ、皆さんが相当に悩んで『昭和40年男』を購入いただいているものと常々戒めているのは、自分自身がこんなヤツだからで、それ自体は雑誌作りにいいことだと解釈している。
このシリーズはどうやら隔週発行らしいからゴールは近い。初のシリーズ全巻制覇は確実だろう。
ガキ時分の永谷園コレクターかつ東海道の同志としては当然買いでしょう! 僕も買う。しっかし北斎のおまけが広重って、なんちゅうオールスターだ。僕の仕事場の至近には北斎の墓があります。