心が震えた。いきなりオープニングの『大地の祈り』とタイトルされている曲が胸に突き刺さった。物悲しいメロディはそのまま彼からのメッセージでありながらにして、彼を通じて届く大地からの声だ。深く曲に入り込んでいけばいくほど、心が強く震えたのだった…。
タメ年ミュージシャンの長友仍世(ながともじょうせい)がソロアルバムをリリースしたことは、先日ここでも紹介させてもらった。発売から少しの時間を経てしまって申し訳ないが、やっとその音にふれることができたのだ。彼によるオカリナ演奏でのインストルメンタルが7曲と歌入りが3曲の、計10曲で構成されているアルバムのタイトルは『帰郷〜おかえり〜』である。
インスト7曲であることは、言葉という最強の武器が少ないアルバムであり、長友の心を捕まえる手がかりが少ないということになる。アルバムタイトルを噛み締め、曲名を噛み締め、そしてオカリナで表現された長友の“声”と心を受け取る。それがこのアルバムの楽しみ方だ。唯一、長友自身の言葉で綴られた歌入り曲の『不知火』は、過去に発表した作品ながら『帰郷~おかえり~』に意味を持たせて入れ込んだのだろう。曲のエンディングで鳴り響くオカリナのロングトーンは、社会や現代、日本に対する彼からの怒りのメッセージなのではないか。あくまで個人的な感覚ながらそう受け取ったのだった。
後半に配置された『赤とんぼ』にも強く心を揺さぶられた。この普遍的な名曲を、まるで澄みきった湖面のようにオカリナで表現していて、そのままに心の美しい人柄が伝わってくる。自分ももっと美しくなりたいと、そんな風に強く念じた。
アルバムのラストに『見上げてごらん夜の星を』を持ってきている。昭和を代表する名曲のひとつであり、震災後の痛んだ心を癒した曲である。長友は『赤とんぼ』と同じようにオカリナで丁寧にメロディを紡ぎ、最後にその武器である歌唱を乗せた。これが効く。アルバムを通じて作り上げてきたストーリーの幕を閉じるのにふさわしい、素晴らしいエンディングになっている。
聴き終えて「タメ年っていいな」とうれしくなった。この歳を迎えた心が、『帰郷~おかえり~』とのテーマで長友と会話をしているような感覚を味わえた。僕の解釈がすべて長友とシンクロする訳じゃないのはもちろんのことだが、本質をつかめたと思っている。それは彼が、誠意にあふれた演奏と歌をまっすぐに送り込んでいるからで、聴いているコチラも演奏する彼と同じくらい心を開くから感じられたのだろう。そのベースにはタメ年という共感が横たわっているのだ。こんな音楽の楽しみ方もあるのだなと感じながら、貴重な時間を過ごした1枚だ。