紅茶キノコとスタイリー、そしてぶら下がり健康器。

次号の企画をあーだこーだと考えている最中に、この3つの健康ツールへと記憶の旅を楽しんだ。70歳を過ぎて、なお立ち仕事を1日約10時間こなすスーパー婆さんのお袋だから、健康対策なんて必要なかっただろうと今さら過去のことを突っ込んでもしょうがないが、健康にはかなり執着していた。ご近所の母親たちと紅茶キノコの効果効能を語り合い「誰々さんの家ではキレイにキノコができていた」などと、子供にはまったく興味のない話を食卓にぶちまけるお袋だった。あのビンには絶対に近づいてはならない。親父と弟を含めて北村家の男たちは完全にしらけながら、でもよけいな言葉を発すると火傷しちゃうからただ静観していた。

そしてそんな食卓に、テレビからは♪スタイリースタイリー♪とのキャッチーな曲が流れる。豪華なお姉ちゃん3人のセクシー(!?)な映像に続き、軽そうな男が出てきて「アメリカで生まれたスタイリー。私に電話してください。どうぞよろしく」で締める。これまた摩訶不思議なものである。そしてずいぶんの広告費をかけただろうと思われるほど、しょっちゅう流れていた。紅茶キノコの記憶と同時期で重なるが、こちらを採用している友人宅はあまりなかった。皆さんの家にはありましたか?

高度成長のまっただ中にいて、健康なるキーワードが生活の中に入り込んできた。それは豊かさの享受が始まったということで、紅茶キノコブームとスタイリーのCMは、まるで高らかなる宣言のようじゃないか。

少しの時を経て、ぶら下がり健康器が爆発的に大ヒットした。これには我が家の男たちも飛びついた。野球と剣道に没頭していた僕は、家で懸垂ができることを強くのぞんだ。猫背気味の親父(僕もしっかりと受け継いでしまったが)はこの矯正に使いたいと、紅茶キノコとはまったく違うリアクションをした男性陣だ。健康対策好きなお袋の同意ももちろん得られて、家族一致でのこの健康器具を手に入れることとになった。

だが、通販にダイヤルしない。電気屋を営んでいる親父はたいがいのものを作ろうとする。「こんなもの買っちゃもったいない」と、交換して引き上げてきたアンテナをぶった切って、壁に細工を施し完成させたのだ。設置場所となったのは居間と台所の間がベストだとのことで、テレビを楽しんでいる横で親父とお袋がぶら下がり、僕は懸垂に汗を流すというとんでもない居間になってしまったのである。昭和の滑稽な原風景である(笑)。

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