双葉社は、ガチャガチャメーカー・コスモスの製品約1,000点を紹介したビジュアルブック『愛しのインチキガチャガチャ大全―コスモスのすべてー』を刊行した。
昭和40年男ならば、ガチャガチャ、あるいはガシャポン(バンダイ商標登録)と呼ばれたカプセルトイが小学校時代の記憶の片隅に残っていることだろう。オモチャ屋や駄菓子屋、あるいはスーパーの出入口に置いてあった自動販売機に、20円とか100円を入れてガチャっと回してカプセルに入った商品を手にして一喜一憂したことを。自販機前面にイラストで描かれていた“当たり”製品を手に入れたくて、次々とお小遣いを投入した思い出を…。
同書は、あのガチャガチャの記憶を蘇らせ、そして、こんな製品もあったのかと新たな発見をさせてくれる本だ。掲載されている製品はすべて、仙台を拠点に活躍するタレント・ワッキー貝山のコレクション。彼はガチャガチャ製品をなんと十万個以上所有しており、同書にビジュアル掲載されているのは、そのなかの選りすぐり約1,000点。それらは、ウルトラマン風消しゴム、スパーカー消しゴム、ロボット、ピンク・レディー、キーホルダー、台紙など全48カテゴリーに分けて紹介されている。
1970年生まれのワッキー貝山が収集しているのは、すべてコスモスというメーカーの製品だ。コスモスといえばカール・セーガンの…と思いがちだがそうではなく、当時のガチャガチャメーカーである。昭和40年男の多くがガチャガチャの虜になったのは、小学生時代だろうから、コスモス製品に親しんだわけではないだろう。だが、1970年代、80年代の子どもたちを熱くさせた世界観は同じである。いや、同書を読むと、コスモス製品はそのエッセンスをあますところなく物語っているといえるかもしれない。同社はコカ・コーラの自販機と争うかのように、日本各地に全10万台を設置。同社“イケイケ“の時代には全国シェア80%にも及ぶほどだったという。
驚かされるのはその製作方針だ。当時の関係者インタビューで、今ではもう、ただ笑うしかない当時の現場の様子が次々明らかにされている。「ビックリマンシールをそのまま複写していた」、「近所の猫を撮影して偽物のなめ猫グッズをつくった」「二番煎じ、三番煎じを、平気でやる会社(笑)。アイデアもないから、ライバル会社のバイキン消しゴムから金型作ってた」等々、著作権にまだうるさくなかった時代の、そして、訴訟されても懲りない同社の、あっと呆れる不屈の(!?)精神がそこにはある。そして、「どれだけ当たりを入れるかは営業マンの裁量です…売れないところに当たりを入れてももったいない」など、純粋な思いでガチャガチャに挑んだであろう、当時の子どもだちの心をものともしない事実の数々が赤裸々に語られている。たとえば、ピンク・レディーのフィギュア。そう言われないとピンク・レディーとはわからないけれど、一旦言われると、それ以外には見えない見事な出来映えだ。目や鼻もないし、身体のラインはいい加減、でも、やっぱり『U.F.O』『ウォンテッド(指名手配)』を踊る姿が確かにそこにはあるのだ。
不思議なことに、著作権無視、儲かることなら何でもしたという同社の当時の実態を知っても、なぜか腹が立つような気持ちにはならない(と思う)。むしろ、昭和40年男の多くはニヤッとし、可笑しさと懐かしさ、温かさを感じるのではないだろうか。ズラリと紹介されている製品は、今見るとどれもこれも精巧からはほど遠く、造形デザインも完成度もただただユルい。なぜ当時あれほど欲しかったのだろうと、疑問を持って然るべきレベルだ。だが、コスモスの世界には紛れもなく、昭和40年男世代を夢中にさせた何かがある。ガチャガチャには間違いなく、昭和の、あの時代ならではの熱気が閉じ込められている。
日々の仕事に追われ、ビジネスに汲々とするのをちょっと一休みして、同書のページをめくれば、心のゆとりを持つひと時を楽しめるのではないだろうか。なお、ワッキー貝山と池田浩明らが参加する同書の刊行を記念したイベントも開催予定だ。興味がある人は足を運んでみてはどうだろう。
日 時 :5月22日(水)午後7時半(開場午後6時半)
場 所 :Naked Loft(新宿区)
出 演 :ワッキー貝山、池田浩明、コスモス界から(ゲストオファー中)
入場料:当日2,000円(飲食別)※当日書籍提示で500円OFF
書籍付き前売り3,000円※書籍当日引き換え