KKベストセラーズは、小谷野 敦著の新書『ウルトラマンがいた時代』を刊行した。
「ウルトラマンがいた時代? 俺たちの時代のことじゃないか」
本のタイトルを知って、多くの昭和40年男はそんな風に思ったのではないだろうか。著者・小谷野 敦は昭和40年男より3歳上の1962年生まれ。同書は我々と同じく、ウルトラマン世代の比較文学者・作家による“自分史の一部として書かれた”ウルトラマンをめぐる文化論なのである。
小谷野 敦の名を聞いて、1999年にベストセラーとなった『もてない男 -恋愛論を超えて』を思い出した人もいるだろう。同書で一躍話題を集めた小谷野はその後、『軟弱者の言い分』や、サントリー学芸賞を受賞した『聖母のいない国』、『「こころ」は本当に名作かー正直者の名作案内』など多くの作品を発表。書籍を通して独特なキャラクターを確立し、また、綿密でロジカル、歯に衣着せぬ論評スタンスで注目を集めてきた。
そんな小谷野の新書『ウルトラマンがいた時代』は、「何を隠そう、私は特撮ファンである。」という“特撮派宣言”で始められる。なかでも『仮面ライダー』などの等身大ヒーローものではなく、巨大ヒーローや怪獣が登場するものが好きなのだと告白。同書は1971年と72年、著者が小学校2、3年生だった2年間にフォーカスされ、ウルトラマンをめぐる思い出が展開されていく。この年は『帰ってきたウルトラマン』と『ウルトラマンA』がテレビに初登場した年であり、また、昭和40年男なら自身の体験に照らせばすぐわかるだろうが、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』が再放送されていた頃だ。当時の小谷野が、ウルトラリーズをどんな環境のもと、何を思いながら観ていたかについて、友達や先生、両親と交わした会話の他、スポ根・難病もの、アニメ、流行歌、インスタント食品の思い出と共に紐解かれていく。
小谷野は、ウルトラマンをどこまでも自分自身と重ねて論じることを試みている。もちろんその一方で、ある意味、著者らしい特撮マニアぶりはいたるところで発揮される。ウルトラマンの口の造形変化や、変身の際の顔の向きの違い、主題歌と番組内容の矛盾や怪獣の着ぐるみの造形レベル、各番組の関係性が番組のなかでどう処理されていたか等々…。ウルトラシリーズファンにはこうした点も興味をひくことだろう。
著者がウルトラマンをこうしたスタイルで語ろうと考えた理由は、終章で説明されている。これによって同書は文化論の顔を明らかにしたともいえる。だが同書を読むおもしろさは、そうした観点とは関係なく、ウルトラマンがいた時代を感じられることだろう。昭和40年男ならば、自身の思い出や見方と比べつつ、より一層、ウルトラマンの時代を楽しんでほしい。