生家が電器屋だったせいだろう。モノは店で買うのが自然な行動で、通販はほとんど使ったことがなく、便利なネット販売も個人では使ったことがなかった。見て触って選ぶのは僕にとって最大の喜びであり、それは幼少から思春期へむかう間にいつも物欲に渇ききっていたハングリーさが起因しているのだろう。購入した袋を持ち帰るときの勝ち誇ったような気持ちは、今も昔もまったく変わらない。購入が決まっている音楽ソフトを求める場合でも大型レコード店に出かける。お目当てのモノ以外によけいなモノを購入して「あーあ、やっちまったい」と、袋を受け取る時の快感を求めて出かけるのだ。そんな僕だが、ついに禁断のネット購入をしてしまった。というのも…。
貸したまんまで帰ってこない音楽ソフトって誰もがいくつかはあるだろう。音楽ソフトだけでなく、本だったり飲み代だったり、はたまた現金だったり(泣)と、さまざまだ。音楽ソフトと本はその代表でしょうな。そのまま会わなくなっちまって、戻って来ないのが多数ある。販売しているものなら買いなおせばいいが、悔しいのはその後絶版になっているものだ。RCサクセションの久保講堂と武道館のライブがワンパッケージになったDVD『ザ・ロックン・ロール・ショー 80/83』とか、ディレクターズカットのウッドストックとか絶版になったままで、貸したまま帰ってこないのは悔しい。入ったことのないレコード店をのぞき込ンでは在庫を探すのだが、見つかっていない。大好きな女性シンガー、リッキー・リー・ジョーンズの『ゴースティヘッド』も探し続けてきた1枚だ。彼女は昭和54年にデビューして『恋するチャック』を大ヒットさせた。記憶している昭和40年男は多いのではないだろうか。彼女の歌は年齢とともにドンドンふくよかになり、僕はずっと追い続けている。97年に発売された『ゴースティヘッド』のタイトルチューンがすごくて、そうなると人に聴かせたくなり、貸したのだった。そんなんだから、好きな音楽ばかりが棚からなくなっていく。ストーンズなんかほとんど全部買ったはずなのに、なぜか棚には10枚ほどしか収められていない。しかも何回買ったことだろう『ベガーズ・バンケット』と『レット・イット・ブリード』がないという、惨憺たる状況である。
去年にリッキーが来日して、ブルーノート東京でライブをやったのを知らないままに見逃してしまった悔しさからか、ついに禁断(ってほどかよ)のネット販売で『ゴースティヘッド』を探してみた。するとあったのだ!! 新品だが少々色褪せているとのことで、定価から若干割引されていた。大阪のレコードショップで、きっと発売された97年からずっと売れないまま陳列されていたのだ。なんだか壮大な時間ロマンを感じてしまい、思わず購入をクリックして、こうなるとついでにと新譜もクリックしてしまった。やれやれ、ネットで買ってもよけいなモノまで購入するのはショップと変わらない。ただ、同じ新品なのに異なる値段が表示されていて安い方をクリックしてしまい、輸入盤を購入してしまった。ハングリーだった中学時代でさえ、僕は輸入盤を買ったことがなかった。パッケージ好きでライナーノーツや歌詞カードは重要なパーツであり、これらがない音楽だけが届けられる輸入盤に魅力を感じなかったから。新譜はレコードショップでも買えるのに、ついでにと誘惑に負けてしまった罰だな。
大阪の柏原市にあるレコードショップ アライさんより、厳重な梱包がなされた『ゴースティヘッド』が届いた。絶対に繋がるはずのなかったショップから届いたことにもまたロマンを感じ、色褪せたジャケットがなんだかかわいく思える。ゆったりと家で呑める時間を見つけたら聴くことにしようと、届いた日から楽しみにしている。ただ、もう誰にも貸さないぞ(笑)。