師走にふさわしいアルバムを10枚セレクトして、不定期連載でご紹介している。これまで5枚を推薦してきて、いよいよ後半戦となるぞ。こんなテーマでお届けしているのは、自分自身がその聴き方を習慣のようにしてきたからで、掲載してきたラインナップを見るとめまいがしそうなとっ散らかり方をしている。さらに今日の1枚が混迷(!?)を呼ぶ。なんとピアノジャズである。俺には関係ないって顔をなさらず、おつき合いくださいな。
昭和40年男にとってジャズって音楽は、なんだかいけ好かない感じにとらえている諸氏が多いのではないだろうか。実際僕も、ここに紹介する1枚と出会わなかったらそうだっただろう。生きていてよかったよ。
ドラムとベースとピアノというシンプルな構成から繰り出されているとは思えない、変幻自在の音色には何度聴いても驚愕させられる。力強さとスリル、そしてジャズに対してのイメージとはまったく異なる雰囲気が漂っていて、それまで持っていた概念とはなんとつまらないものだったのかと反省したほどだった。
『ナイト・トレイン』とのタイトルどおり、夜汽車が走る姿を眺めるかのような気分でウイスキーを呑りたい(僕はいいちこだが)。そして、このアルバムの旬の時期といったら絶対に12月なのである。裏付けもあって、レコーディングされたのは12月の15・16日とのクレジットがあるのだ。1962年ということなんで、僕らはまだ精子にも卵子にもなっていない頃の遠い昔の冬のスタジオで録られた。今ほどの空調設備なんかなかったはずのスタジオで、暖をとりながらこんなにも熱くてスゲエプレイをしたのかと、想像するだけでもおもしろい。
前述したジャズに持っているイメージと異なるのは、このアルバムはブルースナンバーが多いことがまずあげられるだろう。やや語弊があるかもしれないが、ストーンズの初期を聴いている気分を味わえる。加えてわかりやすいメロディラインを持つ曲が多いのも取っつきやすいところだろう。『ナイト・トレイン』のテーマメロディなんか♩シュッシュッポッポ シュッシュッポッポ♩ってピアノでやってくれていて、そんな親しみやすさが全編にあふれているのだ。
オスカー・ピーターソンの真骨頂といえばライブで、僕は贅沢なことに最後の来日公演をブルーノート東京で観た。陣取った席がよく、ライブが終って控え室へ帰る途中に握手をしていただいた。でっかい手の感触を今でもはっきりと覚えているよって自慢かよっ。ついでに自慢をもう1つ。写真のとおり僕はアナログ盤を所有していて、コイツがものすごく音が良い。トリオ演奏の間にある空気はアナログ盤の方が断然すぐれている。ジャズ愛好家たちはアナログ盤が大好きらしいが、それがしっかりと頷ける音質だ。もちろんCDでだって十分に楽しめるから、ジャズ入門盤としてもおススメだ。