この夏、特撮ファンの話題をさらった「館長庵野秀明 特撮博物館」、東京都現代美術館での公開もいよいよ大詰めを迎える中の9月28日、感謝祭と題した円谷特撮作品の特別上映会とトークショーが行なわれた。
トークショーに登壇したのは、特撮博物館における展示物の目玉、全長3mのマイティ号の撮影用模型の修復を手がけた原口智生監督。館長である庵野秀明監督とは“同志”と呼び合う中の原口監督は、地震が映像の世界にのめり込んだきっかけとなった円谷作品に対する熱い思いを切々と語る一方、マイティ号の修復に至るまでの秘話を披露してくれた。
この日上映された作品は『ウルトラセブン』第13話『V3から来た男』、『怪奇大作戦』第3話『白い顔』、『戦え!マイティジャック』第12話『マイティ号を取り返せ!(前編)』の計3本で、いずれも原口監督自身のこだわりから選りすぐられた作品だ。
『ウルトラセブン』の『V3から来た男』は、昨年惜しくも他界した名脚本家・市川森一が若き日に手がけたもので、ウルトラ警備隊のキリヤマ隊長と、同期の親友で宇宙ステーションV3のキャップ・クラタとの友情を描いた話。ウルトラホークの華麗な戦闘シーンが印象的な、ファンの間でも名作の声高い1本だ。実はこの回で使われたウルトラホーク1号の模型は造形師でもある原口監督の手で修復され、特撮博物館に展示されている。さらに原口監督は、この日初披露となる宇宙ステーションV3の模型を持参。残念ながら博物館での本展示には修復が間に合わなかったそうだが、イベント参加者らには素晴らしいサプライズとなった。
一方、特撮博物館の目玉に据えられた『マイティジャック』『戦えマイティジャック』に登場する巨大水陸両用戦闘艦マイティ号だが、原口監督は、「おそらく日本一マイティジャックを愛している人だろう」という庵野監督に、原口監督自身が所有するマイティ号の撮影用模型を修復して大勢の人たちに見てもらいたいと語ったことから話が広がり、今回の特撮博物館の企画へと結実したのだという。
ただ、マイティ号の修復は一筋縄で行くものではなく、作業を進めていた千葉県銚子の工房は昨年の東日本大震災で大きな被害に合う中、奇跡的に難を逃れたという。原口監督は「撮影用の模型はすぐに処分されてしまうというのが当時の常識。それが残っただけでも奇跡なのだから、ここにこうしてあることは本当に素晴らしいことだと思う」と語った。
そんな奇跡の連続によって実現した特撮博物館の公開も10月8日まで。ここに来て来場者もぐんと増えてきているが、是非皆さんの目で確かめに来て欲しい。
<編集部・足立謙二>
特撮とSFと鉄道を愛する自称昭和キュレーター。1年のギャップと闘う昭和41年男。