先週末に行なわれたバイクレース、『鈴鹿8耐』のレポートをお送りしている。
タメ年監督鶴田が率いる『エヴァRT初号機トリックスター』が最後のピットワークによって、ヤマハの後ろに順位を落としたものの、ヤマハはもう一回ピットインがあるから、実際のタイム差はほとんどない状態になっていた。いよいよ表彰台争いになり、両チームとも意識してハイペースのラップを重ねていた。日が落ちて暗いサーキットをそれまで以上のペースで走る。そして残り30分を切ったところでヤマハチームがピットに入り、給油だけでなくタイヤ交換もする勝負に出た。タイムロスよりも新しいタイヤで残り時間を戦う選択したのだ。ピットから出たときに鶴田より数秒前を行く、まさにデッドヒートで残り時間は30分を切っていた。完全に暗くなったなか周回遅れのマシンをパスしながら、凄まじいペースで行く2台に観客も、もちろん我々プレスも釘付けとなった。7時間以上経過した終盤にこれほどのドラマを用意しているとは、耐久レースってヤツはおもしろい。ライバルチームがいなくなったトップのホンダは、余裕のクルージングのごとくペースダウンしての周回を続け、まるで3位争い眺めているかのようだった。
そしてついに、鶴田のチームはヤマハを差して3位となった。ますますのデットヒートに周回遅れのマシンが絡み、もうスリリングなんてもんじゃない。「このまま終ってくれ。鶴田の笑顔を見せてくれ」と、僕は祈るようにモニターに見入っていた。ここにいたると、友人としてしかレースを見られず、取材者としては完全に失格だ。
差し返された。4位に落ちてしまい時間がドンドン過ぎていく。必死に追い回しているそのとき、もう残り3分ちょっとのところで、モニターとともに流れている実況が叫んだ。「エヴァが来ない」と。プレスルーム内に悲鳴が響いた。その直後のモニターには、マフラーから白煙を吐いて、コースアウトする鶴田チームのマシンが映し出された。なんということだろう。最後の数分のところでリタイヤとなった。
鶴田の夏は終わった。残酷にも順位は付かず、燃えた闘志はそのまま涙に変わった。僕は鶴田のピットへと重い足で向かった。通夜のようになってしまったビット内で、すすり泣く関係者たち。これまでの付き合いでは見たことの無い表情の鶴田から、なんのコメントも取れずにピットを後にしたのだった。この日のレースは僕にとって14回目の取材にして、もっとも荒れた内容となった。
翌日、電話が入れづらくてメールで悔しさを伝えると、もう吹っ切れている。攻めきれたことは満足だとのコメントが返ってきた。そして、来年の戦いへとすでに気持ちを切り替えていたのだった。