最新号で紹介した『ジェフ・ポーカロ セッション・ワークス2』が本日発売になった。ジェフ・ポーカロとの名前を聞いてピンと来るなら音楽通の部類だろうが、彼がドラマーを務めていたバンド、トトならほとんどの昭和40年男が親しんだことだろう。トトは一流ミュージシャンたちをサポートする職人たちが結成したバンドで、ジェフ・ポーカロもトトのメンバーとして世に出る以前から、売れっ子ドラマーだった。トトでデビューした後も、多くのミュージシャンのレコーディングに参加してたくさんの名演奏を残している。このアルバムはそんなポーカロの仕事集となっているのだ。
じつはこのアルバム発売の背景には、悲しい現実が横たわっている。ポーカロが若くしてこの世を去ったのが、1992年の8月5日のことで、今年20年の節目となることで発売となったのだ。僕らは20代の後半で、ほとんどが仕事中心の生活を送っていたことだろう。バブルの崩壊が始まっていたものの、あれだけの喧噪に突然のブレーキなんかかかるわけはなく、混沌とする社会の中でうごめいていた。そんな頃だったから、音楽通を名乗る僕自身、情けないことにポーカロの死を知ったのはずいぶん時を経てからだった。
ジェフ・ポーカロについて少し解説させていただくと、ズバリ彼は、ロックシーンにリズム革命を起こした男だ。その後のシーンに大きな影響を及ぼした、ロック界の功労者といえるだろう。僕が常々語っているのは、ポリスにおけるスチュワート・コープラントとともに、同じ時代に出てきたことがロックの進化においては奇跡であり、また必然でもあった。
彼らが出てきた70年代後半は、ロックの歴史なんてまだそう語るほどの年月は経ていなかった。だがそこに至るまでに、多くのターニングポイントとなる変革を遂げてきた。プレスリーやビートルズ、ディランやヘンドリックスといった開拓者が次々に現れ、ロックそのものが巨大なマーケットへと育っていった。肥沃な地ゆえ、才能が集まってきては次々とエポックメイキングなロックの出現が繰り返された。すると当然ながら変革のサイズが小さくなっていく。成熟ともいえるだろう、混沌の時代になっていく。僕らがリアルタイムで経験した、キッスやエアロ、クイーンらがデビューしたのが73年前後で、そのあたりから流れが加速していった。
そして70年代の後半にはバンクやテクノ、ディスコサウンドといったカテゴリーが乱立していく、まさに百花繚乱の時代に突入していく。そのとき僕らは中学生で、洋楽に触れていく頃とちょうどシンクロするのだから、なんちゅう幸せな世代だろう。そこに奇しくも同じ78年、様々なカテゴリーが乱立するなかでロックミュージックの王道でありながらも、革新性にあふれたポリスとトトが出てきた。まったくタイプの異なるバンドながら、圧倒的な武器がリズムであることが両者に共通する。それを支える2人の天才ドラマーは、やはりタイプは異なるが、共通するのはリズムの奥行きが深いことと、グルーブが鮮明に出ていることだ。
コープラントがポリスのなかでこそ際立つのに対し、ポーカロはどんなミュージシャンとのセッションでもすばらしい成果を出す。だから売れっ子であり、ゆえに高いレベルのミュージシャンがポーカロを指名して、ハイクオリティな音楽が次々と提供された。今回紹介する1枚は、それらからセレクトされているから、僕らがむさぼるようにロックを聴いていたころのベスト盤としても十分に楽しめる内容だ。そしてもし、これを読んでジェフ・ポーカロというドラマーに興味を持ってもらえたなら、職人技をたっぷりと楽しんでほしい。