【空から見た昭和の記憶 ②】目まぐるしい変貌を遂げた東京湾。その行く末にあるものとは…

第2回「港湾の泡沫」… 千葉県 船橋市・習志野市

『昭和40年男』公式サイトのオリジナルコンテンツ「空から見た昭和の記憶 (首都圏編)」では、昭和の後期に誕生、または消滅した地上の構造物について、上空からの画像でひもとき、振り返ります。しばし空からの時間旅行をご一緒に!


 
高度経済成長期以降に大きな変容を見せた東京湾。その一例として、今回はとある港湾エリアに焦点を当て、その変遷をたどってみます。

■写真① 1966年 8月 / レジャーの多様化とともに

▲出典: 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス より作成

 この写真は 1966年 8月に撮影された 千葉県の船橋市と習志野市の境界付近です。今も変わらないもの、今は変わってしまったもの… と様々ですが、それぞれのスポットを下に記した①~⑤の番号順に見ていきましょう。

  1. 写真のほぼ中央に見える「船橋競馬場」は今と変わらない位置にありますが、当時は馬場の内側に「船橋オートレース場」が併設されていました。
     
  2. 船橋競馬場の左手に見えている施設群は「船橋ヘルスセンター」です。意外と知られていないことですが東京湾周辺では天然ガスが取れ、その採掘に際して温泉が湧出したという経緯で作られたのだそうです。1977年には閉鎖され、現在は「ららぽーと TOKYO-BAY」となっています。
     
  3. 競馬場の左手下方に目をやると、いびつなフラスコのような形状をした見慣れない構造物があります。これは 1965年から ’67年まで2年間のみ運営されていた「船橋サーキット」です。なかば伝説的な存在として、クルマ好きやモータースポーツ好きであれば一度はその名を耳にしたことがあるのでは。
     
  4. サーキットのすぐ右手に隣接している直線状の構造物は 遊覧飛行用の滑走路で、後にはゴルフ場、巨大迷路、屋内スキー場「SSAWS (ザウス) 」など波乱の来歴を経て、現在は IKEAやマンション群となっています。
     
  5. 船橋競馬場の右手に田畑と住宅街を挟んで隣接しているのは、戦前からの老舗レジャー施設として知られていた「谷津遊園」です。名物だった海面上にせり出したジェットコースターをこの写真からも確認できます。谷津遊園自体は 1982年に閉鎖されましたが、園内にあったバラ園は残され「谷津バラ園」として現在も同じ場所にあります。
     

■写真② 1970年 4月 / 止まらない開発の波

▲出典: 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス より作成

現在も船橋競馬場から京葉線を挟んだ南側にある巨大な公営住宅「若松団地」1969年に造営されました。湾岸地域の開発は続々と進められていますが、まだこの頃には広大な干潟 (海面が白っぽく見えている部分) が残されていることが見て取れます。

経営難により閉鎖されたサーキット跡地には、’68年に船橋オートレース場が移転されました。海側のスタンド席には船橋サーキットのメインスタンドがそのまま流用されていたそうです。そのオートレース場も利用者の減少や施設の老朽化、近隣マンションとの騒音問題など、時代の変化には抗えず 2016年に閉鎖され、跡地は現在、大型の物流施設となっています。
  

■写真③ 1972年12月 / 消えゆく干潟

▲出典: 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス より作成

埋め立てによる開発はとどまるところを知らず、東京湾に存在した干潟の多くが失われていきました。その中にあって、谷津遊園の海側に位置する長方形の領域は当時の大蔵省の所有であったため埋め立てを逃れ、結果的に「谷津干潟」として残されることになります。
 

■同じエリアの現在の様子

こうして見ると、埋め立て地の只中に残された谷津干潟の存在が際立っています。四方を陸に囲まれてはいますが、水路で東京湾とつながっているため、潮の満ち引きなど干潟としての特性は保たれているそうです。
 

谷津干潟と東京湾をつなぐ水路のひとつ「谷津川」は、住宅街や工業団地の合間を流れています。一見しただけでは、この辺りがかつて海だったことは分かりません。
 

幾度となく消滅の危機にさらされた谷津干潟は、市民によるねばり強い保護活動を経て 1988年に 国の 鳥獣保護区に指定され正式に保存が決定しました。そして ’93年には、国内の干潟として初めて「ラムサール条約登録湿地」へ認定されるに至ったのです。

現在では 都心で自然を学べる場所として市民から広く親しまれ、四季折々の本来あるべき東京湾の姿を見せてくれています。豊かな国土とは何かを考えるとき、我々が谷津干潟から学ぶことは少なくありません。

(取材・撮影・文: T. 田中)
 


 
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