6月のことだった。会社近くの道に、二つ折りになった 1,000円札を見つけた。数えると7枚もあるじゃないか。これはちょっとした大金である。拾ったことがなんとなく後ろめたくて、周囲の目が光っていないかを気にしながらも近くの交番へと行った。若いお巡りさんに「こんな経験ありませんよ」と言うと、彼も裸の札は初体験だという。二人で談笑しながら写真の書類を完成させて、3ヶ月後にはほぼ僕のものになることが決定だと信じた。名前が書いてある訳じゃないのだから。
思いっきり無駄なことに使ってやろうと考えていた。1日かけて7,000円分の映画を観るとか、全部マンガの単行本に当ててやろうとか。でも本命はやはり、一人できっかり7,000円の飲み食いをすることだろう。微妙な金額こそのおもしろさがあった。が、人間とは忘れる動物である。いや厳密に言えば、12月の初頭まで受け取れるものと間違った記憶をしていたのだ。そしてある日、そろそろ期限だから行こうかなとこいつを見て愕然とした。「きっきっ、期限が〜、きっきっ、切れてる〜っ!!」と愕然の後に叫んだ。たかが7,000円、されど7,000円である。
何故か、中島みゆきさんの名曲「あした天気になれ」がジングルした。「宝くじを買うときは 当たるはずなどないと言いながら 買います」の部分に気持ちが向かったのである。無駄なことに使ってやると勇んでいた自分の心境とは随分異なるものの、時間経過によってお金を失っていく悲哀に、今回の現象と少しの重なりを感じた僕だ。お巡りさんとの談笑もあったおもしろき喜びを、僕は無惨にも失ったのである (んな、大袈裟な) 。
裏面を見ると、引き取り期間内に受領されない場合、所有権は東京都に帰属し、お渡しできなくなりますとあった。そーか、2ヶ月間だけ僕のものだった7,000円は、東京都にカンパされたのだ。無駄に使ってやろうと思っていた金は、きっと東京都が有効に使ってくれるのである。そう思えば、いとおかしだ。ははーん、負け惜しみだ!!