ホンダは、大型バイク『NC700X/S』に、有段式自動変速機“デュアル・クラッチ・トランスミッション”を搭載したモデルを6月14日(木)より発売する。価格は『NC700X Dual Clutch Transmission<ABS>』が75万2,850円、『NC700S Dual Clutch Transmission<ABS>』が70万1,400円。
『NC700X/S』は今年の2月に発売されたばかりのニューモデル。700ccの排気量を持つ水冷直列2気筒エンジンを搭載しているツーリングバイクで、オフロードスタイルをもつ『NC700X』と、ロードタイプの『NC700S』の2モデルが用意されている。この他にスクータースタイルの『インテグラ』も存在しており、エンジンやフレームといった基本的なコンポーネンツを共通化しながら、スタイルの異なるモデルに仕立てることで、大幅な低価格化を図っているのが大きな特徴となっている。
デュアル・クラッチ・トランスミッション(以下、DCT)とは、Hondaが二輪車用として独自に開発した自動変速機構。有段式トランスミッションの変速を自動化したもので、現在のところ二輪用ATの代表格であるCVTと比較して、よりダイレクト感のあるスポーティな加減速を、手動でも自動でも楽しめるのが最大の特徴だ。1-3-5速の奇数段と2-4-6速の偶数段に独立したクラッチが用意されており、現在使用されているギヤを切り離しながら、次のギヤをつなぐことで、手動と比較してもよりスピーディかつスムーズな変速が可能になる仕組みだ。四輪車では多くの最新スポーツモデルですでに搭載されており、そのなかにはポルシェなどのメーカーも含まれている。
が、エンジンとの連携が姿勢やコーナリングなどのライディングに大きな影響を及ぼす二輪車でこれを実現するのは容易ではない。たとえば、コーナリング中にライダーの意図しない変速が起これば、その姿勢を大きく崩してしまう可能性もあるからだ。また、複雑な機構を持ち、大型化しがちなDCTをスペースの限られた二輪車に搭載するためには大幅な軽量化・コンパクト化が必要な点で、技術的な壁も存在した。だが、ホンダはこれらの問題を緻密なシフトスケジュールの開発やメインシャフトの二重化といった多くのアイデアと技術によって解決し、2010年6月にフラッグシップスポーツツアラーであるVFR1200Fに搭載。さらに2012年4月にはNC700シリーズの一つである『インテグラ』へ、改良を加えた第2世代のDCTを搭載し、発売している。
今回、このDCTの搭載モデルを『NC700S/X』へと拡大したことで、選択肢がさらに広がった。オートマチックモードでお気楽に乗ることもできるうえ、マニュアルモードを駆使すれば、簡単な操作でダイレクト感のある走行フィーリングを積極的に味わうことができる。通常モデルのほぼ10万円高で購入できるDCTが“買い”かどうかは大いに迷うところだろうが、筆者はこの世界最先端のシステムがこの価格で手に入るというのは大きな魅力だと思う。『インテグラ』は試乗していないが、『VFR1200F』に試乗したときはどのモードでもまったく違和感なく乗れて、それでいて有段式トランスミッションならではのダイレクト感を味わえるすばらしい出来栄えだった。とくにスピーディな変速でリズミカルに操れ、まるで自分の腕が上がったかのように錯覚したことを思い出す。
ちなみに、オフロードタイプの『NC700X』には、専用の前後サスペンションを採用することで、シート高を30mm低く設定して足着き性を高めた『NC700X TypeLD』も同時に追加される。