不定期連載企画、懐かしの名盤ジャンジャカジャーンのシリーズ第9弾は、ザ・バンドでお送りしている。1976年に事実上の解散コンサート『ラスト・ワルツ』を開催しているから、リアルタイムで聴いていたという昭和40年男は稀だろう。音楽好きの昭和40年男なら、ロックの歴史を紐解いて興味を持ち、後追いで惚れ込んだ方は多いだろう。もしこれまで聴いたことがなかったら、ぜひこのアルバムに手を伸ばしてほしい。染みるサウンドが酒とよく合い、すばらしい時間を手に入れられることを約束しよう。
長いキャリアで溜め込んできた音楽を放出した格好でリリースされたデビュー作は、当時の音楽的な流れをまるで無視した作品だったゆえセールスは今ひとつだった。だが多くのミュージシャンや評論家は、そのクオリティに驚嘆の声をあげた。エリック・クラプトンは心随しきってしまい、ザ・バンドのメンバーになりたいと言ったとの逸話がある。そして1作目では放出しきれなかった、まだ蓄積されていたエネルギーとバンドの勢いが相まって、翌年に『The Band/ザ・バンド』をリリースした。この作品をザ・バンドの最高傑作とあげるファンも多い、これまた傑作である。
僕が彼らのベストアルバムが『Music From Big Pink/ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』だと評価しているのは、もちろん僕の好みであり独断である(笑)。その要因となっているのは、リチャード・マニュエルのボーカルによるところが大きい。先にも述べた、ザ・バンドには専任で張れるほどのボーカルが3人いて、それぞれに特徴があり、これはザ・バンドの大きな魅力でもある。そして僕の最も好みのボーカリストがリチャードなのだ。その風貌や言動と結びつかない繊細さが大きな武器で、それでいながら声の音圧が高く迫力も兼ね備えていて、グイグイと胸をえぐる歌となる。他のどんなシンガーにもたとえられないタイプなのだ。『Music From Big Pink/ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』には、彼のいくつもある名歌唱の中でも際立つ2曲が入っていて、しかもA面頭とB面ラスト(おーっ、この言い方懐かしい)を飾っている。リチャードが主役のような構成がたまらなく、彼のファンには涙がこぼれる仕上がりだ。ボーカルだけでなくソングライティングでも、これ以降のアルバムと比べて最も活躍している。ボーカルと同じく、じつにに繊細で細部まで行き届いた曲であり、また大胆な展開も見せる。前述のA面頭はリチャードによるもので、スーパーバンドのデビューを飾るのにふさわしい楽曲である。
ファーストとセカンドはザ・バンドの作品の中で同じ路線の作品であり、まずはこの2枚をじっくりと聴き込んでほしい。派手さはないが聴けば聴くほど味が出てくる、毎度発見があるすばらしいアルバムだ。僕にとっては人生の宝物と言い切れる2作品であり、ここにも昨日書いた第1期ロックシーンがこうして締めくくられる1つの現象だと感じている。同時期の他の名作に比べると地味な存在であることは否めないが、ロックシーンにおいての重要度は堂々肩を並べる2枚である。(つづく)