東儀典親(ちっち)
奈良時代から1300年にわたって雅楽を世襲してきた東儀家に生まれ、雅楽師・東儀秀樹氏を父にもち、のびのびと育つ15歳、東儀典親くん。そんな彼の素顔は、なんと、1970年カルチャーを愛するロック男子! 周りがなんと言おうと好きなものは好き! と我が道をいく“ちっち”くんが、自身が惹かれる70年代カルチャーの魅力について熱く語ってくれました。
昭和好きの若者に自分たちの音楽を聴いてほしい
甘いマスクと、流れるロングヘア。まるで1970年代のCharのようなルックスの彼は、正真正銘、令和を生きるミュージシャンだ。“雅楽もできるロックアーティスト”の東儀典親、通称・ちっちさんは、なんと15歳にして、リアル昭和世代たちに引けを取らない知識をもつ類まれなる昭和ラバー。その逸材ぶりがふつふつと業界に知れわたり、『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)や、『ハマスカ放送部』(テレビ朝日系)などのテレビ出演や雑誌『ポパイ』にコラムを寄稿するなど、他に類をみない個性で注目を集めている。
特に好きな世界は1970年代初期のロックで、なかでも洋楽ならイギリスのフリー、邦楽では四人囃子を敬愛。憧れの彼らが全盛期だった時代に入り込み、自身も常日頃から柄シャツにベルボトム(パンタロン)、ロンドンブーツという服装で、なんと高校にもこれらを着て通っているというのだから驚き!
「音源はレコード派です。CDもたくさん持っていますが、レコードがいいのはていねいに音楽と向き合うことができることだと思っています。アルバムだとA面にもB面にも必ず始まりの曲と終わりの曲がある。当時のアーティストはそれらを想定して曲目を構成していたのに、CDだとそれがなくなる。神保町に通い、古い雑誌も集めていたりもします。ミュージシャンのデビュー時のインタビューなんかを読むと古いのに新しい発見がいっぱいあるので」
まあ、これくらいなら全国津々浦々を探せば同じような若者がいなくもないのかもしれないが、ちっちさんの昭和度数はこんなものでは収まらない。ラジカセなどの音響機器は序の口。自身が使うギターにシンセサイザーなど、あらゆる楽器が昭和製(しかもマニア感涙もののレア機種ばかり)で、乗っている自転車は70年代の電子フラッシャー、骨董、民芸品も趣味で部屋のいたるところにそれらをレイアウトしている。怪獣・妖怪にも目がなく、幼少期から初期の『モスラ』や、『ゲゲゲの鬼太郎』に熱中。小学生の頃に父である東儀秀樹さんと共にクラシックカーラリーに参戦し、優勝した経験もあるほど、大のクルマ好きでもある。
同級生たちのなかでは浮いていると言わざるを得ないちっちさんの趣味だが、誰になんと言われようとその嗜好がブレないのはスゴイ。それはなんといっても、お父さんの影響がとても大きいよう。音楽は無論、アート、クルマ、ミニチュアなどなど超がつく趣味人のDNAが組み込まれているというわけ。
「70年代ロックが好きになったのは4歳の時。父が趣味でやっているロックバンドのリハーサルを見に行くと、70年代の洋楽ロックのカバーをいくつもやっていて。以降、取りつかれたようにフリーやディープ・パープル、ローリング・ストーンズなどにハマっていきました。『幼稚園の時にドゥ―ビー・ブラザーズのパトリック・シモンズの歌い方の真似をしていたよ』と父にいつも言われます(笑)。小学生になると父を真似して夏でもワイシャツしか着ないようになり、確か『日本人の愛する洋楽アーティストベスト50』というNHKの音楽特番を観て、サイケデリックスタイルにも興味をもちました。それからベルボトムしか履いてません(笑)」
今を生きる15歳は70年代と現代をつなぐ使者
今でも毎日お父さんと一緒にいて、「あの曲がカッコいい」とか「あの楽器がいい」と語り合っているというちっちさん。どちらかが自宅のスタジオで楽器を奏でていると、その音を聴きつけた方がそれに加わって結局いつもセッションになるというから、なんともステキな環境だ。そんなちっちさんもまた、お父さんと同じく、マルチプレイヤーでもあることを特筆しておきたい。
「ピアノ、ベース、ドラム、笙(しょう)や篳篥(ひちりき)といった雅楽の楽器、その他にも小さい時から身近にいろんな民族楽器がありました。すべてを突き詰めて一生懸命に練習してきたというよりは、子供の遊び道具のように接する感覚で。父はなんでもできる人ですが、だからといって一つひとつをちゃんと教わったことはないんです。『雅楽をやりなさい』とも決して言わないし、むしろ『好きなことをやりなさい』と言う。たとえば僕が『ディープ・パープルのあの曲をやりたい』と質問すると、『こうするといい感じになるよ』と教えてくれたりします」
生まれながらの音楽家であるちっちさんが最も力を入れているのがバンド活動。あくまで“バンド”にフォーカスしているあたりも70年代的で好感がもてるが、70年代フリークの仲間である15歳のベーシスト・レイクレイマーと、13歳のドラマー・想の3名で“グラスホッパー”を結成し、ライブを行っている。ユーチューブで聴くことができるそのバンドのサウンドは、70年代ロックさながら。中古レコード店で彼らの盤が出てきたら、今の時代のバンドとは思わないかもしれない!?
「曲は70年代のロックをベースに、全英詞のものや日本語を合わせたものを作っていて、どちらにも“今の自分”を入れるようにしています。ライブに来てくれる人はほとんどが大人ですが、今は昭和好きの若者が増えてきていると聞くので、そういう人にも自分たちの音楽を聴いてもらえるとうれしいですね」
今の若者ってちっちさんもそうじゃないか! とツッコミたくなるが、彼は、タイムマシンで過去からやってきて、70年代のリアルと現代をつないでいるような存在なのかもしれない。
PROFILE
東儀典親/とうぎのりちか
平成18年(2006年)11月22日、東京都生まれ。愛称は“ちっち”。奈良時代から1300年にわたり雅楽を世襲してきた東儀家に生まれ、雅楽はもとより、幼少期から70年代ロックを愛し、音楽家として作曲活動にも励む。若き才能が集うバンド・GRASSHOPPPERでリーダーを務める
Instagram
https://www.instagram.com/norichika_togi/
https://www.instagram.com/grasshoppper_band/
INFORMATION
「東儀秀樹 新春プレミアムステージ」
2023年1月7日(土)15時開演
会場 | シアター1010 11階劇場(東京都足立区千住3-92) |
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出演 | 東儀秀樹、東儀典親、Shikinami、ほか |
問い合わせ先 | シアター1010チケットセンター |
電話番号 | 03-5244-1011(10~18時/年末年始12月28日~1月4日は除く) |
HP | https://www.t1010.jp/html/calender/2023/togi0107/ |
【「昭和45年女・1970年女」Vol.9(2022年11月号)掲載】
取材・文: トロピカル松村 撮影: 小松陽祐(ODD JOB)
トロピカル松村/昭和63年、兵庫県生まれ。サーフィン専門誌の編集者を経て、『昭和40年男』他、『POPEYE』『BRUTUS』などで執筆。休日は60~80年代のサーフボードやスキー板を駆使して、当時スタイルのスポーツライフに励んでいます!