電子ゲームの進化の歴史を実物大のマシンとともに検証する本企画。今回登場するのは、ソーラーパネルを搭載して画期的だった「大脱走」だ。
思わず熱くなる!? ハラハラドキドキの大脱走劇
バンダイ LCDソーラーパワー「大脱走」
発売:1982年 当時価格:5,400円 電池:不要
囚人を左右に操作し、牢からの脱走と塀の外の仲間のクルマにたどりつく2種類のゲームが遊べる。塀の外で銃弾に当たったり、警察犬に噛まれたりしてもミスにはならず、再び牢の中へ…。仲間のクルマで逃亡に成功すると牢に戻り以降はループ。操作系は本体左側にオールクリア(初期化)、2段階の難易度切り替え、サウンドON/OFF切り替えスイッチ、下部に左右の移動ボタンを搭載。移動ボタンはスタートボタンの役割も兼ねる
ハンディな電子ゲームの登場は1978年頃のこと。当初はLEDやFL(蛍光表示管)を使った卓上タイプのゲーム機が主流だったが、80年代に入ると任天堂の「ゲーム&ウオッチ」を筆頭にLCD(液晶)搭載の電子ゲームが登場し、昭和50年男が小学1年生だった82年に一大ブームを巻き起こした。
この年の玩具の主役は専ら電子ゲームで、誕生日やクリスマスプレゼントにオモチャ屋で買ってもらった人も多いだろう。ゲームセンターに通うにはまだ早く、友達の家にも手軽に持って行ける電子ゲームこそがオレたちにとって最初のデジタルゲーム体験だった。そんな電子ゲームのなかで真っ先に紹介したいのが、ソーラーパネルの搭載と1画面で2ゲーム構成が秀逸だったLCDゲーム『大脱走』だ。
これはバンダイが展開したソーラーパネル搭載の「LCDソーラーパワー」シリーズのひとつで、電池なしで遊べるのが特長。子供にとって毎日何時間も遊ぶ電子ゲームの電池代はバカにならず、当時は友達とのプレイ時に電池が切れるなんてこともザラだった。電池の消耗を気にせず遊べるのは大きなアドバンテージだし、何よりソーラーパネルには未来が感じられた。
もうひとつの特長が、1画面で異なる2つのシーンを遊べる点。ゲーム内容は、囚人を操作して警官に捕まらないように刑務所を脱走するというもの。牢の中からスタートし、見回りに来る看守に見つからないように隠し持っていたノコギリで鉄格子を切り落としていく。看守は連続してドアを開けるフェイントをかけてくるので、スリル満点。看守がドアを開けた時はベッドに移動し、水着のポスターを見てやりすごすという演出もニクい。牢を抜け出すと画面が刑務所の外に変わり、警官の銃撃や警察犬の襲撃をかわしながら、逃亡を助ける仲間のクルマの登場を待つ。妨害をかわして無事にクルマに逃げ込むと、ボーナス点が加算される。
刑務所の内と外という異なるシーンのゲームが遊べるのは、背景絵を巧みに流用しているから。基本的にはキャラクターを重ねて表示できない1枚の液晶画面でありながら、キャラの配置を工夫することで重層的なゲーム性を実現しているのだ。残念ながら、筆者は子供の頃にこのゲームを持っていなかったが、友達に親指が攣つるほど遊ばせてもらった。その分、思い入れの強さはひとしおである。当時のハイテク技術とアイデアに富んだ画面構成というモノとしての魅力、それにゲームの内容と中毒性は保証する。機会があればぜひとも遊んでほしい。
すべて電池不要! バンダイ「LCDソーラーパワー」シリーズ
同型機は「大脱走」も含む全6種類。いずれも背景絵などを巧みに流用して2つのシーンを遊ぶことができる。操作は左右のボタンのみといたってシンプル。
謎の沈没船(’82)
恐怖の無人島(’82)
謎のピラミッド(’82)
激戦Uボート(’82)
天国と地獄(’82)
より複雑な操作にも対応した大型機
折りたたみ時:85×124(mm)/オープン時:165×124(mm)
悪霊の館(’82)
【『昭和50年男』2021年 11月号/vol.013 掲載】
文・コレクション提供: 山崎 功 撮影: 小林岳夫
山崎 功 / 昭和51年 3月生まれ、神奈川県出身。任天堂研究家として同社の製品収集・保管を行う「任天堂アーカイブプロジェクト」を運営。『懐かしの電子ゲーム大博覧会』などの著書あり。NPO法人「ゲーム保存協会」にて電子ゲームのアーカイブ活動中。