不定期連載企画、懐かしの名盤ジャンジャカジャーンのシリーズ第9弾は、ザ・バンドでお送りしている。リアルタイムで聴いていたという昭和40年男は稀だろう。それどころかまったく通っていない洋楽ファンもいるかもしれないが、ロック史上に燦然と輝く偉大な存在であり、多くのミュージシャンたちに多大なる影響を与えたスーパーバンドである。
素晴らしい作品群から悩み抜いて選んだ1枚は『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』で、彼らのファーストアルバムだ。ロックバンドが、いきなり素晴らしいアルバムを引っさげてシーンに飛び込んでいるパターンはわりと多い。僕がこの不定期連載で取り上げたミュージシャンでいえば、レッド・ツェッペリンのファーストはベストに選んでも異論は出ないだろうし、ポリスの1枚目もそうだ。ある程度のキャリアを積んだ実力派のバンドが、デビューアルバムに注ぎ込むエネルギーによって奇跡的な作品を生む。キャリアの中で蓄積された作品群の中から厳選してレコーディングするから、優れた楽曲が並ぶことで完成度が高まっていることもよくあり、よってファーストながら最高傑作は生まれるのだ。少しそれるが、昭和40年男にとってはなじみ深いトトが似た存在かもしれない。ハイテクニックとキャリアを持ち、ボズ・スキャッグスのバックバンドを勤めていた経歴があり、その上でつくられたデビューアルバムは名曲ぞろいで、また度肝を抜かれるような演奏力でシーンに殴り込んできた。
ザ・バンドがデビューしたのは、これより10年さかのぼる1968年のことだった。素晴らしいレベルのバンドへと成長させることとなった下積み時代は長かった。ロニー・ホーキンスのバックバンドトして結成され、その後ホークスと名乗り、どさ回りの日々を送る。76年に開催された解散コンサートとなってしまった『ラスト・ワルツ』がドキュメントフィルムになっていて、ここでメンバーたちが活動を振り返って語っていたのは、8年はどさ回りで、その後の8年がまばゆいホールでのコンサート時代としている。どさ回り時代には万引きの話まで出ていて、当時の凄まじさやロックンロールバンドの狂乱ぶりがよくわかる。ザ・バンドの連中は相当なワルだったのだ。(つづく)