東京のダウンタウン荒川区に住む人間の青春時代に、銀座界隈はとてつもなくハードルが高かった。距離的にはさほどでなく、渋谷や新宿の方が遠い。が、気持ちは遥か彼方の土地だった。コンプレックスなくこの地を歩けるようになったのはずいぶん大人になってからだ。
銀座にほど近い有楽町駅の周辺には、似つかわしくない店が何軒かある。この店の隣の果物屋もそうだし、ちょっと先にはやはり古い街中華っぽい店がある。そしてここは随分以前から気になっていた店で、先日初めて入ることができた。
サイトを覗くとリニューアルしたそうだが、店内外の雰囲気はまさしく昭和である。壁にびっしりと貼られた短冊がいい感じで、客もおっさんばかりだ。いろいろと悩んだが、やはりシンプルにラーメンをオーダーした。価格帯は全般高めだが、日本の一等地だと考えれば仕方あるまい。この一杯も780円なんでだいぶ高い。東京では現在どのくらいが平均だろうか。昨今、どこも50円から100円の値上げは仕方なしの状況であるが、それ以前の感覚だと600円なら納得、700円だとちと高いなあ、500円台だとナイス、たまに見かける500円ぴったりやかつての中心価格帯だった450円なんて見ると歓喜する。そんなイメージの僕だ。
待つこと少々で運ばれてくると「おおー、昭和だ」と心が叫ぶ。海苔が一枚のっかっているとさらに狂喜乱舞しただろうが、透きとおったスープにうっとりさせられた。当然ながら、まずはスープを口へと運ぶ。思ったとおりのテイストに舌鼓が乱打だ。香りがよく、あっさりで薄めのお味はさすが銀座界隈といった感じかな。ツルツル麺が気持ちよくて、メンマとチャーシューは普通に昭和だ。いい、とてもいいと心が喜び続けている。
おそらく現代人には通用しないだろう。昭和の残像と照らし合わせられるから、うまさが増幅しているのだ。郷愁はうま味調味料ということだな。ニューウェーブに反発を覚えるから、うまさのレベルは高いのにそう感じないのはタチが悪いなと自分でわかりつつも、まあ還暦が見えてきたおっさんなのだから仕方あるまい。
また来たい。次は餃子にビールを楽しもうと決めている。いつかこういう店を貸切にして、読者ミーティングを開催してみたいなと野望が芽生えた。同世代で町中華店を経営している方、エントリーしてもらえないだろうか? 茶店とかそば屋さんなんかもよろしいなあ。うんうん、この展開をちょっと進めたい。常連さんで交渉ができる方がいたら、やはりエントリー願いたい。ぜひっ。