おっさんの定番。

なんとも昭和ないい絵だなと思わずシャッターを切った。ここは浅草で昭和25年よりず〜っと営業を続ける「水口食堂」さんだ。かつて、動画を撮って発信したこともある大好きな店だ。一人で呑るもよし、仲間とワイワイと過ごすもよしの極めて居心地のよい店だ。

 

席に通されると男は黙ってサッポロビールをキメる。いや、黙っていたらビールは来ないから「赤星」と一言ばしっとキメる。赤星が運ばれ、目の前で栓を抜くのがこの店の儀式だ。グラスと共に僕の前に置かれると「マグロのブツと漬物のカブとナスをお願いします」と、これまでは寸分変わらぬ毎度のアクションである。ビールをぐびっと呑るとほとんど待つことなく漬物が届けられる。うまい、この世に数ある至福のうちで、ここ近年最も多く演じているルーティンである。

 

ここでの楽しみはこれと大盛りのマグロのぶつ切りをじっくりと楽しみながら、メイン料理をあれこれと考えることだ。BSの番組『植野食堂』をご覧になった方にご説明しよう。タイトルバックに映し出される、木の札に描かれたメニューが壁一面に並ぶあの映像が水口である。それを眺めながら悩むのもまた至福なのだ。麻婆豆腐は、中国人が食ったらこれは麻婆豆腐でないと完全否定するようなジャパンテイストだ。ハンバーグはかけられるソースがぬぁんとミートソースで、ひき肉感が半端でない一皿である。どこまでも軽いアジフライや、豚の生姜焼きもこれ以上ないほどの昭和な味だ。どれもこれも完璧な昭和が盛り付けられていて気持ちいい。一人で訪れた時は、このうちから一皿しか入らないのがちょっと寂しい。とは言え、あれこれと頭の中でつぶやきながら迷う時間は、まるで『孤独のグルメ』の五郎さんそのものである。くどいようだが至福だ。

 

僕よりも15歳も年上の店ながら、いつも満席なのは定番を定番以上に作り込んでいる努力だろう。そんな努力を『昭和40年男』も続けたい。読みたくなるタイトルにずっしりとくる本文だ。もちろん写真も大切な要素である。が、やはり読み応えが生命線だと思うのは、ここの料理を食べる度に思わされる。華美でなくてよい。じっくりと染み入るような文章を掲載し続けたい。そう思わせてくれるのも、ここに通う理由だろう。
 

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