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■河崎監督 & 町あかりさんに直撃!『タヌキ社長』誕生のひみつ!?
―『タヌキ社長』、拝見させていただきました! いきなりタマキンまる出しの着ぐるみタヌキ社長が登場して、特に誰もツッコまず疑問にも思ってない… というのが、まず笑えますよね。
河崎 実 監督 (以下、河): そこがまさに「不条理どうぶつシリーズ」ってとこでね。
― それに、タヌキ社長がごくごくマジメなイイ社長で。たとえばオバQみたいな困ったちゃんキャラで、ドタバタ珍騒動を巻き起こす、ってワケでもないのが不思議な感覚でした。
河: 見た目との落差が大きいほどいいんだよね。このタヌキ社長も、着ぐるみの姿をしているってだけで本当は普通の人間なんですよ。異質な存在がいつの間にか日常に溶け込んでいる、そういう現代社会のカリカチュアっていうかね。
― おぉ、実はそんな深いバックボーンというかコンセプトがッ…て本当ですか!? そもそも、この企画はどんなところから生まれてきたんでしょうか?
河: 最初は、ヒットしたイギリス映画の『えびボクサー』にあやかって、2004年に『いかレスラー』ってのを作ったんですよ。“いか” を “えび” に、“ボクサー” を “レスラー” にしただけなんですけど (笑) 。これをきっかけに、2006年のワールドカップの時に『かにゴールキーパー』とか、しばらく「不条理どうぶつシリーズ」を作っていったワケです。それで今回、町さん主演で一本映画撮ろうと思って、久々にシリーズを復活させました。コロナ禍の中で考えたこともあって、思いっきりバカバカしいものをやりたいって気持ちもあったね。まぁ、僕の映画は大体いつもバカバカしいんだけど。
― そうですか、コロナ禍ゆえに…ってところもあったんですね。
河: 後はまぁ、とりあえず着ぐるみさえ作れば、社長シリーズのフォーマットで、会社、料亭、バーのシーンだけで安く撮れるな、ってことでね。“三題噺” みたいなもんですよ。映画ってどうやって撮るかも考えなきゃいけないから、そうやって逆算してくんですよね。
― 今回はなぜ、タヌキにしたんでしょう?
河: さぁ…? なんとなくですかね? (笑) 『コアラ課長』ってのは2005年に撮ってて、今回も “フグ社長” とか案はいろいろあったんですけどね。タヌキなら顔と手だけ作れば、後はふつうの背広で済むかな、と思って。でもタマキンまる出しにしたらあまりに変質者だから、背広も茶色い特注のオートクチュールにして、変態感を薄めてね。結局、けっこう高くついちゃったけど。で、タヌキとなれば酒、信楽焼だろうってことで、タイアップもしたりね。
― なるほど~。町さんは、最初に『タヌキ社長』でいくって聞いた時はどう思いましたか?
町: よくわかんなかったんですけど… (笑) 。わかんないなりに、台本をいただいたら、とってもイイ話で。タヌキ社長も本当にイイ人だし、社員の人たちもみんな面白いし。何より映画が好きで憧れていたので、そういう世界の中に自分も入れるってことにワクワクしましたね。
― 町さんが演じる社長秘書「酒町房子」は、タヌキ社長にベタ惚れしている設定でしたけど、町さんとしてはこういうタイプ (?) の男性はお好きですか?
町あかりさん (以下、町): え? いや、わたし自身はあんまり… (笑) 。劇中でも話が出てましたけど、お父さんぐらい歳上ってなると、恋愛対象としてはちょっと…。
― そうですか~。タヌキ社長とまさに同世代の昭和40年男読者は、ちょっとガッカリしたかもしれませんが… (笑) 。
町: でも、ホントにすごくイイ人だから、房子が好きになっちゃう気持ちはわかりますよ。
― そういう恋する乙女役を演じるっていうのは難しかったですか?
町: そうですねぇ、そもそも、こんなセリフのある役が初めてだったので… とにかく一生懸命やりましたけど。どうしたらいいですかね?って監督に聞いたら、「大丈夫大丈夫、できるよ!」ってだけで、演技指導みたいなことも特になくて。セリフを間違えたりしなければOKで、どんどん進んでいったので、大丈夫かな?というか、なんか逆に、スゴイ!って思ってました (笑) 。
河: いや~、ちゃんと女優してましたよ。というかね、歌手って一番ヤバい人じゃないですか。特殊技能ですからね。才能がほとばしってる。歌の才能がすごい人にとっては、演技なんて屁みたいなもんですよ。
町: いえいえ、そんな…。
― ちなみに町さんは、元ネタである「社長シリーズ」を、ご覧になったことは…?
町: 観ようと思ったんですけど、けっこう冒頭で断念しちゃって…。『男はつらいよ』は全部観るぐらい好きで、昔の映画も吉永小百合さんの恋愛モノとか、けっこう観てるんですけどね。クレージーキャッツの映画でもしんどくて… どうも会社モノの雰囲気があんまり好みじゃないみたいで。
―えぇ~っ!? そうなんですか? (笑)
河: ハッキリ言うよね~ (笑)。ふつうはここで気をつかっちゃいそうなところだけど、さすがですよ!
町: スイマセン… (笑) 。
―『男はつらいよ』と二本立てだった『釣りバカ日誌』はどうですか? あれもやっぱり会社モノですけど…。
町: いや~、あんまり…。二本立て公開されてた頃も、私まだ5歳とかだったんで、映画館では全然観たことないですし。でも『タヌキ社長』はホントに楽しかったですよ! 信楽酒造も、みんなあったかい雰囲気で、ステキな会社ですし。こんなところで働けたら楽しいだろうな~って思いましたもん。
河: 町さんは実際に会社で働いたことはないんだよね?
町: あ、はい… 学生時代のバイトとかはありますけどね。
河: ずっと歌一筋でやってきてるってすごいことだよね。やっぱり会社に入ると、いろいろと辛い、大変なことも多いんですよ。パワハラとかセクハラとかあったりね…。だから今回はそういうのナシの、理想の会社を作ろう!って感じでね。僕はハッピーエンドの映画が好きだから。何も考えずハッピーに観られるヤツが。若大将もクレージーも、昔の東宝の映画はそうなんだよね。若大将なんて、ストーリー全部一緒ですよ? 青大将がちょっかいかけてきて、勝負して勝つ、っていう。カラッとしてて、松竹の寅さんみたいな人情とかはない世界ですから。
― “人情がない” ってスゴイですね~。そう言いきっちゃっていいのかアレですが… (笑) 。逆に、というか、町さんにとって寅さんのグッとくるポイントはどの辺りですか?
町: マドンナたちが魅力的なんですよね。皆さん綺麗だし素敵だし、憧れますね。彼女たちの悩みとか、すごく共感できるんです。それで、物語の中でだんだん問題が解決して、幸せになっていくじゃないですか。そうすると、あぁ、よかったなぁ…って。
― なるほど、マドンナ目線なんですね。『昭和40年男』の読者だと、ふつうに寅さん目線で、せっかくイイ感じになっても自分から逃げちゃうんだよなァ、とか、やせガマンの美学とかで見がちなので、その視点は新鮮ですね。
町: 寅さんとの恋の行方はどうでもよくて… 寅さんとくっついてもきっと幸せになれないだろうし (笑) 。いろんな女性の生き様が描かれるのがいいんですよね。あんまり女性で寅さん好きな人っていないんで、絶対もったいない、観た方がいい!と思って、最近『町あかりの「男はつらいよ」全作品ガイド』って本も出したんです。
河:『男はつらいよ』も奇跡的な映画だからね。もともとはテレビドラマの『泣いてたまるか』があるんだけど。若大将もやっぱり原型となるような作品がいろいろあって、そこから洗練されてああいう形になった。松竹と東宝とかで方向性は違っても、残って続いてきたものはやっぱり面白くできてるんですよね。そういえば寅さんに、ギララが出てくる話があるでしょ? 松竹の怪獣映画『宇宙大怪獣ギララ』の。
町: あ、『寅次郎真実一路』ですね。寅さんの夢に出てくるんですよね。
河: 2008年に『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』っていうリメイク作を撮ったんだけど、その時に山田洋次監督が「どこの馬の骨だかわからないヤツに撮らせるなら、僕にもああいうの撮らせてよ」って言ってたらしくてね。
― マジですか!? それはちょっと観てみたい気もしますが… (笑) 。
河: いや~、山田監督にも怪獣映画やってみたい、なんて気持ちがあったんだなぁ、って思ったんだけど。正直、ちょっと嬉しかったよね。俺はあの山田監督を嫉妬させた男だぜ!ってね (笑) 。
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