クイーンの『ジャズ』を手に入れた中1の冬休みである1月5日。
その翌日の1月6日も、生涯忘れられない日になった。
ふらっと遊びに来た叔父が
「去年できたサンシャインとやらを見に行こう」
と俺を誘い出した。
昭和40年男なら鮮明な記憶だろう。
60階建てのビルは話題をかっさらっていったよね。
そしてここには、前日俺が買った地元荒川区にあるレコード店の
店舗面積で3倍はあるだろうという大型店があり、
ちょっと見たいと付き合ってもらった。
すごい量のレコードに興奮する俺。
クイーンもファーストから全部あり、眺めてはため息をついていた。
するとそこに天使が光臨した。
さっきのレストランでビールなんか呑んじゃって
ほろ酔い気分の叔父だ。
「なんか1枚買ってやろうか?」
「?」
一瞬、なにがなんだか信じられないくらいのうれしい言葉にも、
一応遠慮などしてみる中1の俺だった。
このままいつまでも眺められているのなら、
1枚買ってやったほうがいいと判断したのかも知れない。
とにかくめでたいことに1枚買ってもらうこととなった。
ここでの俺は、おもしろい判断をした。
昨日までノミネートしていた欲しいレコードリストからでなく、
買ってもらうのなら少し冒険したいと思ったのだ。
前日以来『ジャズ』を聴き込んでいたことでクイーンにグッと寄っていた。
そしてその中でも名作と誉れ高い『オペラ座の夜』を選択したのだった。
きっと自分の金ならもっと安全な買い物をしただろう。
安全?
この時点では、大好きな曲が入っていることだ。
エアチェックでカセットに収められているものの、キチンと所有したい曲の存在だ。
だが『オペラ座の夜』には1曲も知っている曲がなかった。
うーん、叔父のおかげで一世一代(それほどか?)の冒険をしたのだ。
ニコニコ顔で抱きしめる。
こうなると少しでも早く帰って聴きたいが、
買ってもらった叔父の行動に付き合うのがエチケットである。
が、うれしい気持ちと焦る気持ちが交錯し
もうサンシャイン60にはなんのときめきもなくなり、
名作への期待ばかりが膨らんでいくのであった。