もうずいぶん昔の話に思えてくるが、ご報告させていただく。大晦日の僕はすごい。必殺仕事人から炎の料理人に変身して、大量のミートソースを煮込むのだ。ご覧のひき肉は3㎏で、トマトホール缶を20缶に特大玉ねぎを15個とセロリが2本、ニンニク1個 (一かけじゃないよ) 、きのこ色々5パックプラス仕上げのマッシュルームが2パックが材料で、各種スパイスもあるものをテキトーに加える。女房には手を出させず、息子のヘルプを仰ぎあくまで男料理に徹するのである。
まずはひたすらみじん切りだ。あまり言葉を発さない親子はひたすら切りながら、玉ねぎで涙を流したりする。細かなことを考える必要がないのは煮込み料理の醍醐味であり男料理の楽しさでもあり、ゆったりとした時間が流れるのがよい。一般家庭でこのサイズをお持ちの方は少ないだろう、我が家が誇る寸胴でニンニクのみじん切りとローリエをオリーブオイルでゆったりと炒める。そこにみじん切りになった野菜をドーンと突っ込んで火を通す。一方、これまた特大サイズの中華鍋でひき肉を炒める。ポロポロになったら赤ワインを1リットル注ぎ込んで一煮立ちさせたら寸胴鍋に合体だ。そこにトマトホールを入れるのだが、いくらでかい鍋といっても20缶は入らない。これだけの材料なんで、5缶入れたらおっとっと状態になっちまった。ふっふっふ、これでいいのだ。昼過ぎから始めてここに至ったのはすでに大晦日の午後2時である。あとは元旦の夕方までただひたすらコトコトと煮込みながらトマトホールを追加してゆくのだ。長時間煮込むわけだが、絶対に避けたいのが焦げることだ。臭くなっちまって苦労がすべて台無しになる。味をつけると焦げやすくなるから、この段階で塩を使わない。大晦日〜元旦にテレビや宴を楽しみながら、つきっきりにならなくてよい大切なテクニックである。
演歌好きにはたまらないテレ東の『年忘れにっぽんの歌』でビールを呑み始める。7時になると演歌との別れを惜しみつつもNHKに変えてそのままチャンネルロックで、『紅白歌合戦』『ゆく年くる年』『年の初めはさだまさし』と楽しみながらも、何度も厨房へ行き鍋を掻き回す。超トロ火でグツグツを続け、煮詰まってくるとトマトホールを追加していく。うーむ、楽しい。なんでこんな作業が楽しいのだろうと自分で突っ込みたくなるが、ニヤニヤしてしまうくらい楽しい。少しだけ睡眠を取るかなと2時に火を止めてスヤスヤ。そして、なぜかお正月は早起きしてしまう僕で5時に自然と目が覚めた。と、すぐさま火を着けてグツグツ開始だ。初日の出を見に一旦消すが、帰宅するとここからは延々と火にかけっぱなしで夕方の完成を目指す、グツグツ。用意した20缶のトマトホールが鍋に収まったのが午後2時だった。すでにお袋と弟家族との大宴会は始まっているのだが、ちょくちょく厨房に行ってはかき回すのを続ける。そして夕方5時、いよいよ仕上げにかかる。用意した挽肉のうち700gは粗挽きのゴロゴロしたやつで、この食感をアクセントにするからここまで引っ張ったのだ。そして初めて塩を投入する。肉にしっかりと外壁ができるくらい、じっくりと炒めて合体させる。30分ほど経ったところでやや厚めにカットしたマッシュルームを投入して6時、完成〜となった。
この時点では塩は粗挽き肉に振った少量のみだ。茶店で食ったミートソースの5倍くらいの比率のミートソーススパゲティを食卓に出す。それまで散々お節を食ってきたが、参加者全員別腹である。昨日より20時間以上にわたって煮詰められたソースのうまいことうまいこと。昔、仲良しのカメラマンから富士山の撮影はアマチュアの方が向いていると聞いたことがある。時間を費やせるからいい瞬間を刻み取れるからだと。このソースもそうだろうなと思う。プロだったらこんなに時間をかけずとも、おいしく作れるはずだ。が、愛情たっぷり時間たっぷりで、アマチュアらしい絶品が仕上がるのもいとおかし。最後の仕上げは、普通の分量で食う “ソース” にするために塩を追加して少しの時間煮込んで、二度目の完成〜となった。これをジップロックに詰めると、2〜3人前が12袋でき、お土産だと振る舞って我が家には5袋しか残らなかったのさ (笑) 。これを冷凍庫に突っ込んで大事に大事に食うのだ。
今年も年越しの大事業がいつもと変わらず終了した。めでたしめでたし。さっ、みなさんも立て。家にある一番でっかい鍋をこの鍋と比較して材料を揃えて、休日にトライだ。健闘を祈る!!