「直角が行く。」連載中のズバリ昭和50年男・渋谷直角。90’sのリアルな空気を刻んだ最新刊『世界の夜は僕のもの』を語る。読プレあり!

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■ “知らねーよ!” みたいなコトにこそ、宿るものがある

『世界の夜は僕のもの』p.232
▲p.232 / それぞれの人物が出会い、つながっていくのが楽しい本作…だが、レオくんとヨーコちゃんはニアミスだけで、作中では知り合うに至らず。2人が出会うエピソード、早く読みたい!

A: あれ、今回が1巻目、ということではなくて、この単行本一冊だけで終わりなんですか? でも実際、フツーにまだ2巻へ続く、って感じで描かれてますよね…?
 
直: それは… オレの未練ですね (笑) 。
 
担当編集者・牧野氏: ちょっと終わり方があっさりしていたので、ラストを読まれた方はみんな、まだ続くものと思っていたみたいですね (笑) 。
 
A: ですよね~? 当然この続きは、レオくんとヨーコちゃんが知り合う話になっていくんだと思い込んでたんですけど… これでいったん完結ではあったんですね。

牧野氏: そうだったんですが、実は年明け (2022年1月) から、また『週刊SPA!』で描いていただくことになりまして…。

A: おぉ!

直: 短期連載なんですけどね。レオとヨーコの話をやることになりました。

A: まさに待望の!じゃないですか~。いや~、それは楽しみです。さておき、この単行本収録分では ’96年までで一区切り、ということにしたのは何か理由があったんですか?
 
直: ’96年の終わりぐらいに、みんなピッチ (PHS) を持ち出すんですよね。0円で入れるようになったんで。そこを節目として、この本では “ケータイ前夜” までの話を多めにしておいたんですけどね。
 
A: なるほど、インターネットもやってる人はやってるけど、まだ全然一般的じゃなかった頃… そこまでってことですね。

直: そうですねー。当時はインターネットが、最先端の、ある意味オシャレなものになってましたもんね。

『世界の夜は僕のもの』p.15
▲p.15 / PART1での、16歳・高1時代のレオくん。バイト先の3つ上の先輩・ハジメさんから、’91年9月にUPUから刊行された『i-D JAPAN』の創刊号をもらう

A: ケータイもネットもまだまだで、若いヤツはまぁギリギリ、MacでDTPやってフライヤー作ってた…みたいなところですかね~。話はちょっと変わって、この作品では登場人物それぞれが、音楽、マンガ、お笑いなどのテーマに対応していて、細かなディティールが語られていきますよね。そこを作品の大きな柱にしよう、みたいなことは最初から考えていたんですか?
 
直: 最初の話で『iD-JAPAN』が出てきますけど、このマンガを始める前にメルカリでまとめ買いしました。その時にもう、めちゃくちゃ覚醒感があったんですよ。オレの全ての… 今も好きなものが詰まってる!って。で、『iD-JAPAN』のことを今描くヤツいねぇだろうなーとか思って。
 
A: それはそうでしょうね~ (笑) 。
 
直: あと、当時の “お笑い第三世代” の東京の芸人さんをどう見てたか… 当時の爆笑問題とかZ-BEAMとかも今描くヤツいないな、とか。そういう、あんまり今は語られないような、こぼれ落ちたものを描きたい、っていう気持ちは当初からありましたね。で、爆笑問題がテレビに出てきた頃のカリスマ感とか、ミステリアスな感じ、怪しげなニオイみたいなものとか…、あと、とんねるずは頭一つ二つ抜けてて、第三世代にくくるのはちょっと違うんじゃないか、とか…。まぁホント “知らねーよ!” みたいな (笑) 、そういうことにこそ宿るものがあるというか。
 
A: 当時の各ジャンルのリアルな状況把握というか… それぞれに対応する登場人物が実際どんな風に感じていたのか、ってところがすごくリアルに描かれてますよね。お笑いの、“ダウンタウン対たけし” みたいなあたりも、確かに確かに!って思いましたし。

『世界の夜は僕のもの』p.48
▲p.48 / ’90年。お笑い好きで、Z-BEAMのネタをパクってクラスで笑いを取っていた松尾くん。金曜夕方に放送されていた『LIVE笑ME!!』での爆笑問題の快進撃に熱くなる

『世界の夜は僕のもの』p.201

『世界の夜は僕のもの』p.202
▲p.201~202 / ’93年。芸人を目指す栗田くんは、カリスマ・松ちゃんに心酔する熱狂的なダウンタウン派

直: “松ちゃん病” とか “ダウンタウン病” だったとか今も言われたりしますけど、それにはどういう背景があったのか? とか、あぁ、だからこんなに好きになっちゃうんだ、ってわかるような… そういうのがすごく描きたかったんですよね。
 
A:『i-D JAPAN』とかも今回の作品で振り返って、え、1年半しか発行されてなかったの? そんな短かったのか! なんて、記憶のズレに気づけたのも面白かったですね。僕も作中のレオくんと同じで『i-D JAPAN』は毎号買いつつ、時々、本家の『i-D』も輸入書扱ってる店で買ってましたねぇ。
 
直: 雑誌買うのも、普通の時代でしたからね。
 
A: みんなが雑誌からいろんな情報を得ていた時代で… 今や紙の雑誌はなかなかに厳しい状況になってますけど、当時は売上的にも一番華やかなりし頃だったんですよねぇ…。
 

■みんなが忘れてしまったようなことを、まだまだ描いてみたい

A: かなり資料も調べてエピソードの裏を取った、ってことでしたけど、たとえばこの… 遊園地で行われた初の大規模レイヴ「ナチュラル・ハイ」に行ったとか、あとキャイーンに会って、すごくいい人だった、みたいな話は、直角さんの実体験が入ってるのかな、と思ったりしたんですが。
 
直: その辺は本当にあったことですね。でも、キャイーンと会ったのはたぶん、実際にはコレで描いたより1年前なのかな。’93年ぐらいになると、キャイーンはもう結構売れてたんで。ナチュラル・ハイは、行くには行ったけど、ほとんど記憶がなくて (笑) 。その後の、好きなコが誰かと抱き合ってたとかその周辺の記憶はあったんですけど。でも今はありがたいことにYouTubeでナチュラル・ハイの動画も結構上がってるんですよね、それでこの、デリック・メイが電源切った話も、あぁ~そういえばそんなのあった!って思い出して。一緒に行った友達に連絡して、切った切った!みたいに一応確認したり (笑) 。

『世界の夜は僕のもの』p.214
▲p.214 / ’93年「ルー大柴のお笑いダイナマイトショー」に出場した栗田くんは、先輩出演者から声をかけられる… コレがキャイ~ンの天野くん! 直角氏はあくまで観客だったそうだが、お笑いライブの会場で話をしたことがあったとか
『世界の夜は僕のもの』p.183
▲p.183 / ’95年夏、富士急ハイランドで開催された日本初の大規模屋外レイブ「ナチュラル・ハイ」。大トリのデリック・メイは鉄板アンセム「ストリングス・オブ・ライフ」の途中でターンテーブルの電源を切り、指で回してプレイした

A: ’95年頃だとフジロックもまだで、日本で大規模なフェスってなかったから、コレに行ってるってのは相当早いですよね。僕も808stateとかはそれなりに聴いてたんですけど、自分はテクノよりテクノポップの人だなって気づいて時代を遡っていっちゃったもんで、ナチュラル・ハイは行けてないんですよね。そういえば… 作中でレオくんは電気グルーヴ好きでテクノマニアのタイセーくんとつるんでますけど、電気って『i-D JAPAN』でシュール4コママンガの『ゴールデンラッキー』をかなりディスってましたよね?
 
直: あー、はいはい。でも後半は褒めたりもしてましたけど。
 
A: あ、そうでしたっけ? 作者の榎本俊二先生のことを “エノ” とか呼んで、だいぶ厳しいこと言ってた記憶が強くって。一方、スチャダラパーは “ゴッキー” 好きだったような…。さっきの “ダウンタウン対たけし” みたいに、評価するか否かみたいな対立軸があって、僕も同級生との間でやりあってましたね (笑) 。でも、それって自分は専門学校時代だったんで、直角さんが中学あたりから『i-D JAPAN』的な世界にずっぷりハマってったっていうのは、やっぱり早いというか、さすがって感じがしましたよ。で、先ほど年明けからレオ&ヨーコ編の短期連載という朗報はありましたが、今後もし本格的に続編の展開があるとしたら、特にこの辺を掘り下げたいとか、もっと、こういうジャンルや人物を出したい、とかはありますか?

『世界の夜は僕のもの』p.92
▲p.92 / 当時の渋谷レコード店マップも作中に登場。DIG天国だった当時を懐かしく思い出す人も多いのでは。『昭和45年女・1970年女』vol.4の80‘s特集にもタウンマップを掲載したパートがあるので、見比べて街の移り変わりを読み解くのも一興

直: 渋谷系については関連書籍もいっぱい出てるんで、さらっとしか触れなかったんですけど、今思うと、もっとイイところをいっぱい描いておけばよかったかな。他にも、描き残したな~ってことはいっぱいあって。裏原宿のファッションのことももっと描きたかったし、スチャダラもそうだけど、ジャパニーズ・ヒップホップの台頭みたいなことも触れられたら、とか…。お笑いでは、今に比べて芸人さんの立場がすごく低かった感じとか。まだウチには当時のビデオテープがいっぱいあるんですけど、観てみるとアナウンサーが若手の芸人さんにかなり上からで、タメ口だったりするんですよね。結構、今見ると違和感があったりするようなものも多い。そういうのがあったから、ダウンタウンが芸人の価値を高めるようなことをやってたっていうリアリティもあった。あと、ビンテージのジーンズブームとか、スニーカーが盗まれるとか… そういうのも描きたかったですよね。
 
A: まさに “エアマックス狩り” とか… 確かに面白いエピソードになりそうですね。
 
直: あと、当時の街の詳細な情報っていうのが意外と見つからなくて。たとえば、渋谷の公園通りのどことどこに電話ボックスがあったか、灰皿がどの辺にあったか、とかってなると、もうみんな覚えてないじゃないですか。自販機のデザインなんかも気づかないうちに変わってるし、タバコとか歯みがき粉とかのデザインも… あとボックスティッシュとかも昔はデカかったんですよ。そういうことも、調べられればもっと入れておきたかったんですけどね。
 
A: 考現学というか、ちょっとだけ考古学というか、そういうアプローチですかね。それにしても ’90年代ってやっぱり、それ以前の、世間の流行が一気にドンッてきてた時代に比べると、各人が自由に好きなことを追求していくようになっていった時代ですよね。だから、それぞれのジャンルや人物に寄せていけば、この作品で描けるネタってまだまだ、いくらでもありそうですね。

渋谷直角氏 / 撮影:石塚康之
撮影:石塚康之

直: そうなんですよ。そこで、西岸良平先生がずっと描き続けられる理由もわかった、っていうか (笑) 。
 
A: そうなるとやっぱり、ガチの続編を大いに期待しちゃいますね。それでいくと、「直角が行く。」の連載の方もまだまだ続けていけそうですか? コロナ禍でイベントもいろいろ流れてしまってたので、地方へ行く機会が減ってしまって大変だろうなと思ってたんですが。

直: それは大丈夫ですよ。ご近所でも、どこかしらに行ければネタとして成立しますからね。
 
A: そうですか~、だったらよかったです。「直角が行く。」で書いてもらったことが、また次のマンガ作品に何かの形で活かされたら、立ち上げ担当としてはうれしいですね。

■PROFILE: 渋谷直角/しぶやちょっかく

昭和50年、東京都生まれ。マンガ家・コラムニスト。専門学校卒業後、マガジンハウスの雑誌『relax』の編集に参加、同誌に掲載された『RELAX BOY』をきっかけにマンガ作品を描くようになり、数々のヒット作を生み出す。編著には『定本コロコロ爆伝!! 1977-2009 〜「コロコロコミック」全史』(2009/飛鳥新社) なども。
 
その他イベントや情報などはホームページにて。http://www.shibuyachokkaku.com


 
…といった感じでしたが、スミマセン! やっぱり自分がしゃべり過ぎちゃってて、お恥ずかしい限りなんですが… ナマ感重視?のトーク採録ということでどうかご容赦くださいマセ。
 
そんなこんなでちとアレでしたが、未読の方にも作品の雰囲気はかなり伝わったんじゃないかと思います。’90年代前半にヤングだった、何かしら 自己表現してみたい、カルチャーに関わりたい、“何者か” になりたい! ともがいていた人ならば、きっと当時にタイムスリップできるハズ… ゼヒご一読あれ!

また、奇しくも?今年の秋には、やはり昭和50年男世代の ’90年代の青春を描いた映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』も公開されましたが、この『世界の夜は僕のもの』も映像として観てみたいと思ったり。すでに実績のある直角氏の作品だけに、すでに目をつけている映像関係者もいそう。マンガの続編とともに、そちらにも大いに期待したいところです。
 
 
(次ページへ続く → ■『世界の夜は僕のもの』渋谷直角直筆サイン本プレゼント!  [4/4] )
 
©Chokkaku Shibuya, Fusosha 2021

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