「よっ、大統領」と声をかけたいくらい引っ張ってから出てきたのは、座長の村木さんだ。先週末に僕が向かったのは、劇団「うわの空・藤志郎一座」の『第3のセルベッサ』という作品の公演だった。結婚式の控え室で繰り広げられるドタバタ劇で、村木さんは新婦の父親役だ。多くの役者さんが作り上げるテンポのいい演技に、笑いがだんだんと強くなってきたところで彼が登場すると、さらにテンポは上がり観る側の笑いも最高潮に達する。いやあ、怪物くんだよ。そこまでの演技だって十分におもしろいし個性的な方ばかりなんだが、村木さんは空気まで変えちまうほどの破壊力を纏っている。いやあ、あらためてびっくらこいた。
彼らの舞台をこれまで何度観たことだろう。流れているのはタメ年男のスピリットだ。他の世代の方が聞いたらチンプンカンプンかもしれないセリフがポンポン飛び出すのが心地よい。同世代による同世代のためのコメディで、ホロっとさせる部分もしっかりと入れ込んでくるから困る。毎度、笑いと涙でスカッとして会場を後にできるのが「うわの空・藤志郎一座」の世界で、観劇後のビールが格別なのだ。
エンタメの世界の住人である。当然ながらコロナの影響は凄まじいことが容易に想像できる。が、タメ年男はへこたれなかった。彼のメッセージによると、〜劇場での公演が難しくなり、あまりにもヒマだったのでこりゃ良い機会だ、ということで映画を撮りました、しかも2本。〜 とあり、1本目は『面白半分』という作品で、僕は10年前に舞台で観た作品だ。やはりガハハと涙で過ごせた特上の時間だった。僕にとっては彼らの初体験だったから、なおさら記憶に強く残っている。村木さんはこの映画作品を「荒削りです」としたうえで、〜「最初は出演しないで監督に専念したほうがいいよ」というプロ映画人のアドバイスを完全に無視して主演もやっちゃうという何を考えているんだ俺、な作品になっております。〜 としている。そして2本目に撮った作品が、今回僕が観た『第3のセルベッサ』とのことで、このサイトからもご紹介したようにこの映画の上映とトークショー、そして舞台とを組み合わせた休みなしの11日間で、タメ年男は毎日会場でお客さんを迎えたそうだ。さすがっ、タフだぜ。
以前は『昭和40年男』の執筆に参加していただいた。劇団員を連れて「浅草秘密基地」にも何度か見えていただいている。奇妙なご縁とでも言ったらいいだろうか、彼が一座を立ち上げたのは1998年で、僕はこの年に初めて編集長に就いた。右も左も分からない小僧ながら、処女作から大ヒットを飛ばした33歳になる直前の日のことは今も忘れられない喜びだ。この偶然もシンパシーを感じる部分かもしれない。
失礼ながら顔もスタイルも抜群でない男に、これほど感情移入しながら観てしまうのが不思議でならない。その魅力は言葉に変換することはできず、体験するしかないだろう。彼らの次公演や活躍に乞うご期待である。情報が入れば、このつぶやきからリリースさせていただく。