スパゲッティ物語。

ガキの頃は今みたいなラインナップはなく、ミートソースとナポリタンが定番だった。前号からの新連載「お料理寅さん」では、大人のナポリタンを掲載したのでまだ作っていない方はこちらの動画でしっかりと学んでトライしてみてちょうだい。今回の写真は、僕がつい先日こしらえたベーコントマトパスタだ。前述の2種しか知らなかった僕が、このメニューに出会った時はまさしく衝撃的だった。

 

蒲田にあったイタリアンレストランで初めて食ったのが18歳の時だった。こんなうまいものがこの世にあるのかと感動した。そこのマスターは本場イタリアで修行を積んだシェフだったが、蒲田という土地柄と、当時はまだイタリアンというジャンルが今ほど確立していなかったから、ハンバーグ&ステーキの店という打ち出しだった。マスター自身もイタリアンじゃ客が来ないからと照れ笑いしながらも、メニューには本格的なイタリア料理がズラリ並んでいて、夜な夜な集まってくる常連たちはそれを肴に酔っ払っていた。マスターの人柄に吸い寄せられる呑み屋だったのだ。僕も彼を兄貴分だと尊敬していたし、カウンター越しに料理の講釈を聞くのが大好きだった。蒲田の店が権利問題でたたむことになり、銀座ホテル西洋のレストランや京都のホテルに移ったときも出張帰りに寄って舌鼓を鳴らしたりした。その後、現在の僕とタメ年の時に最後の店だと大田区の大鳥居に小さなレストランを出した。が、病に倒れてしまいずっと彼の料理をいただいていない。5年前の夏のことだから、30年以上に渡って楽しんできた兄貴のサイコーのイタリアンをいただけていない。早く元気になーれ。

 

この写真は9年前の9月のことで、オープン2周年祝いに花束を持って駆けつけた時のものだ

おかげで、僕は料理が趣味になった。居酒屋で厨房に入っていたこともあり、兄貴の料理講釈と足して我ながらそこそこうまい料理のレパートリーがある。この一皿も、ご覧のとおりうまそうでしょ (笑) 。とは言え、トマトソースはびっくりするくらい簡単なのに本当に美味しい。ソースと絡めながら乳化させるのも好きだが、こうしてかけていただくのも捨てがたい。その日の気分で選択する。

 

かつては、250gを茹でて楽勝で食っていた。多い日は300gも平らげたりしたが、この日は150gである。永遠のダイエッターにはこの少食化はありがたいものの、ちょっぴりさみしい気分もある。こんなところでも加齢を感じさせられるのだ。そう、写真の兄貴はランチでライスをおかわりしまくる僕を温かく見守ってくれたっけ。たくさん食う若い僕は、常連の中でも末っ子でみんな「あきひろっ」と呼んでかわいがってくれたっけ。それもこれも、兄貴のおかげだし常連の大人たちにいじってもらったのはかけがえのない想い出である。もう一度、彼のイタリアンをバクバク食いたい。
 

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