「えっ」
久しぶりに通りかかった店はシャッターが降りていて、ご覧のとおりの張り紙があった。いつもはソースのいい香りで、腹をグーっと鳴らしてくれるはずなのに、悲しいことに閉めてしまったのだ。ご高齢のご夫婦だったから、コロナによる閉店でないかもしれないが、きっかけにはなったのではあるまいか。これまで何度かいただいたことはあるものの、ちゃんと話したわけでないから終戦年から続いていたとはこの張り紙で初めて知った。シンプルなうまさは時の流れにへこたれないものだった。
待つことわずか。出てきた並盛りをつまみにちびちび呑るビールのうまいこと。ここ花家さんは、明るい時間にビールで食うのが正しい大人の過ごし方だ。だからか、なかなか訪れるチャンスは少ないのだが「浅草秘密基地」の舞台となっているショットバー「FIGARO」にほど近いため、店の前を通っては前述のとおり香りを楽しみながら腹を鳴らしグッとこらえるのを繰り返していた。そして、ご夫婦が元気に店を切り盛りしている姿と、うまそうに食う客を見るだけで満足を得ていたのだ。
昭和が街から次々に消えていく。コロナはまるで一掃したがっているかのごとく、昭和の飲食店に重くのしかかっている。ご高齢なのに奮闘を続けてきたがんばりを、諦めに変えてしまう。コロナに端を発した政府のミスリードがその根本にあるのは否めないが、擁護するわけでなくこうした緊急時に果たしてベストなリードをどうやったら見いだせるのだろうとも悩ましい。記憶に新しい、東日本大震災の対応をめぐっての政府もまったく機能しなかった。自民党だったらもう少しマシな対応だったはずだと国民は審判を下し、あっけなく政権を奪取したものの、今回の動きを見ているとさして変わらぬと思えてしまうのが残念でならない。
張り紙へのアンサーの書き込みでは足りず、周りにはこうしてメッセージを綴った手紙が多く貼られていた。ご夫婦への感謝の気持ちを伝えようとするのは、76年にも渡ってこの地で焼きそばを供し続けてきた勲章である。お疲れ様でした。それにしても、好きな飲食店が何軒たたんでしまっただろう。いつも別れは突然で知らないうちに閉店してしまい後悔することばかりだ。花家さんの焼きそばとビールにもう一度だけ逢いたい。あの握り寿司、あのカレー、あのそば…、もうヤダーッ!!